世界文学の最高峰『ボヴァリー夫人』が現代に問いかける幸せの行方
修道院で教育を受けた貞淑なエマ・ボヴァリーが、凡庸な夫に失望し、情事やぜいたくな浪費に耽った末、破滅に至るまでを写実的手法で描いたフランス文学の傑作『ボヴァリー夫人』。原作者フローベールは、何気ない日常の出来事を詳細に記述する中で、ひとりの女性がゆるゆると自滅してゆくドラマを作り上げた。発行当時、風俗紊乱の罪に問われた原作者フローベールが、「ボヴァリー夫人は私だ」と語ったことはあまりにも有名であり、日本でも時代を超えて愛読され、研究書も多数出版されている。

ロシアの鬼才ソクーロフによる独自なエマ像
『太陽』『エルミタージュ幻想』『チェチェンへ アレクサンドラの旅』など、絵画的で斬新な映像感覚あふれる作品で熱烈なファンを獲得し、世界的に高く評価されているロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が、フローベールの原作のエッセンスを忠実に映画化。独自の解釈で、不吉なエロティシズムを湛えた新たなエマ像を生み出した。

ソクーロフ版の「ボヴァリー夫人」の物語は、エマが凡庸な夫に失望し空虚な日々を送る中で、商人ルウルーの勧めるショールや扇子を品定めをする場面から始まる。唐突な導入に戸惑う間もなく、舞台となる村の情景にひきつけられる。岩山が聳える荒涼とした風景は、あたかも西部劇のようだ。ヒロイン、エマの手の動きと声も印象に残る。小さくて鳥の鳴き声のような、あるいは幼女のような声で手をひらひらさせながら話す。動かす手の彼方に夢を求めるかのように。映画が進むに従い、奇声を発したり、ぞんざいになったりと変化してゆく様からエマの変化が読み取れる。

9月下旬、シアター・イメージフォーラムにて公開予定です。
公式HP:http://www.pan-dora.co.jp/bovary/
配給:パンドラ

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執筆者

Yasuhiro Togawa