巨匠・黒澤明監督が亡くなって今年で10年です(1910年3月23日-1998年9月6日)。黒澤監督の代表作のひとつである『羅生門』を保有する角川映画では、この度、米映画芸術科学アカデミーと共同で、本作のデジタル復元を行います。
本作の芸術的・文化的な価値を鑑み、角川文化振興財団と米・映画芸術科学アカデミーおよびフィルム・ファンデーションより、復元費用の助成を受けることになりました。米アカデミー並びにフィルム・ファンデーションとの共同事業・デジタル復元は日本映画として史上初の試みとなります。

『羅生門』(日本公開’50年8月26日)は、’51年ベネチア国際映画祭で最高賞「金獅子賞」を、さらに’52年米アカデミー賞名誉賞(最優秀外国語映画賞)を受賞するなど、全世界から尊敬を集め、映画史に残る傑作です。
本プロジェクトは、映画復元の第一人者であり、アカデミー・フィルム・アーカイブのディレクターであるマイケル・ポゴゼルスキー(Michael Pogorzelski)氏を統括に迎え、また日本側の監修として東京国立近代美術館フィルムセンターに技術的・学術的な助言を仰ぎ、進めてゆきます。

復元されたフィルムは、本年9月18日よりアカデミーで開催される回顧展”Akira Kurosawa: Film Artist”のオープニングにてサミュエル・ゴールドウィン・シアターで、お披露目する予定です。

<参考>
●工程の詳細:4K解像度によるスキャン(データ化)⇒キズ消しなどの修復作業⇒4K解像度による新しいネガ作成

●修復作業は、画の修復についてはLowry Digital、 YCM、音の修復については、DJ Audio、Audio Mechanicにて行います。(全て在カリフォルニア)

●日本映画でこれまでデジタルリマスターされた主な長編劇映画 『新・平家物語』(角川映画/溝口健二監督/1955年)、『二十四の瞳』(松竹/木下恵介監督/1954年)、『砂の器』(松竹/野村芳太郎監督/1974年)

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◇角川文化振興財団 角川歴彦理事長
「このたびアカデミー協会とフィルムファンデーション、並びに東京国立近代美術館フィルムセンターの多大なるご支援のもと、日米初の共同修復が実現しますことに、心から感謝を申し上げます。今から6年前、私が撮影所内の原版倉庫に初めて足を踏み入れた時、ご一緒した今日の日本映画界を代表する映画監督の山田洋次さんは整然とフィルム缶が納められた棚を見て『大映』映画人の仕事ぶりを褒めて、日本の国宝だと評価されました。その後フィルムセンターへ寄託し、これらの作品を詳細に検査したところ、多くのフィルムが経年劣化によるダメージを受けていることが判明しました。これは貴重な文化遺産が瀕している重大な危機であると認識し、その保存・修復を財団の助成事業として取組んでまいりました。『羅生門』は現在角川映画が保有し、後世に残さねばならない約1600タイトルの中でも選りすぐりの一本です。黒澤明監督没後10年という記念すべき今年、そのデジタル復元の成果を内外にお披露目することで、映画保存の大切さはもとより、日本映画界の至宝が改めて高く評価され、次世代に継承されることを願ってやみません」

◇角川映画 井上泰一 代表取締役社長
「角川映画は大映、角川映画、日本ヘラルド映画の3社の作品を数多く保有しております。フィルムセンターさんがいち早く原版の寄託に尽力して下さったおかげで、弊社は2004年より角川文化振興財団の助成を受け、貴重な文化遺産の保存・修復に着手することができました。また今回のデジタル復元は、高品位・大容量の映像新時代を迎えるにあたり、過去の優れた映画コンテンツをどのようにお客様に観て楽しんでいただくか、今後弊社が提供していくための試金石になると確信しております。50年以上前の映画が、公開時と同じ状態でスクリーンに鮮やかに蘇る・・・デジタル技術の粋を集め、日米の公的なフィルムアーカイブ初の共同事業として、黒澤明監督の『羅生門』ほどふさわしい作品は他に無いのではないでしょうか 」

◎角川映画 羅生門ページ
http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/rashomon/index.shtml
◎米映画芸術科学アカデミー 
http://www.oscar.com/
◎フィルム・ファンデーション 
http://www.film-foundation.org/default.cfm
◎東京国立近代美術館フィルムセンター 
http://www.momat.go.jp/FC/fc.html

執筆者

Naomi Kanno