“中国映画の全貌”は1990年4月、三百人劇場の“全貌シリーズ”のひとつとして企画され、“黒澤明の全貌”“大島渚の全貌”“ロシア映画の全貌”など、三百人劇場が映画ファンの新しい聖地となっていた。
 
1990年というのは、その前年6月天安門事件がおこり、?小平の改革開放政策後急成長した中国に世界が脅威を覚えた時期だった。その秋、徳間書店・故徳間康快社長製作の日中合作映画『菊チュイトウ豆』がクランクインしている。第1回“中国映画の全貌”のパンフレット編集後記に、張芸謀監督がクランクインの挨拶で「僕はどんな状況にあっても撮り続ける」と悲壮な決意を語ったことが記されている。そして、この編集後記は「中国よどこへ行くのか、そして中国映画よどこへいくのか」と締めくくっていて、当時の中国の混沌とした様子がうかがえる。

中国映画もまた、1985年陳凱歌監督『黄色い大地』、1987年張芸謀監督『紅いコーリャン』、田壮壮監督『盗馬賊』と中国第5世代が世界の舞台に登場して新鮮な力を誇示した。そして、謝晋監督が『芙蓉鎮』、呉天明監督が『古井戸』を発表、旧世代の監督も円熟した作品を作り中国映画は続々と国際映画祭でグランプリを受賞した。なんと豊穣な時代であったか。そんな時代に起こった事件であったので、『菊チュイトウ豆』製作時の張芸謀監督の発言もうなずけるものがある。

昨年の“中国映画の全貌2006”で、“中国映画の全貌”は開催7回目を迎えた。その年、事件が起こった。長年“中国映画の全貌”の会場だった、三百人劇場が再開発のため閉館すると言うのだ。三百人劇場の映画番組編成の方が、閉館最後の映画上映に“中国映画の全貌”をと言ってくれた。悲しい名誉をおおせつかったのである。無事“中国映画の全貌2006”は開催され、楽日には聖地の消滅を惜しむファンのカメラの放列ができた。さようなら三百人劇場、さようなら“中国映画の全貌”…。
と思ったところ、新宿の新しい映画館K’s cinemaが“中国映画の全貌”を引き続き開催したいと、名乗りを上げてくれた。韓国映画に押されているとはいえ、今や中国映画のロードショー作品は年間10本以上、ワーナー、フォックス等アメリカ・メジャーから東宝、そして我がワコーまで多岐多彩な配給会社が作品を供給している。第1回の東光徳間が全作品を提供した時代とは違い、60本以上の上映作品の選定・交渉、フィルムの確保、時間ごとに変わる上映スタイル、映画館の苦労は並大抵ではない。それを覚悟の上、開催に力を貸してくれると言う。

2008年北京オリンピック、2010年上海万博と王道を歩んで世界をリードする国へと変貌する中国。その中国の姿を捉えてきた中国映画。その全貌を上映します。新天地で。
新作2本は、今の中国の姿をひとりで考え実行してきた?小平を描いたずばり『?小平』、そして、低予算ながら、昨年の中国映画ナンバーワンヒットになった『クレイジー・ストーン〜翡翠狂騒曲〜』。香港返還10周年記念、日中国交正常化35周年にふさわしい作品です。
“中国映画の全貌”が新宿に根付いてくれることを信じて。

■上映作品
『とう小平』
(※「とう」の字はパソコンで表記できない漢字なのでひらがな表記とさせていただきました。ご了承ください。)
2003年/中国/35mm/カラー/シネマスコープ/115分

STAFF
監督:ティン・インナン(丁蔭楠)
脚本:ロン・ピンピン(竜平平)、ガオ・イー(高屹)、
ティン・インナン(丁蔭楠)
撮影:セン・シンハオ(瀋星浩)
美術:ナー・スゥフェン(那樹楓)
作曲:チン・ダーチャオ(程大兆)
CAST
?小平:ルーチー(盧奇)  
ズオ卓 リン琳:ワン・スー(王蘇)

文化大革命の荒廃から経済大国への道を切り開いた英雄の公式実録ドラマ
2004年 金鶏賞・最優秀作品特別賞/第26回 百花賞・最優秀作品賞

<解説>
?小平を核にした党中央第二期指導グループの時代を描く。物語は3度目の失脚後、表に姿を現さない?小平に人々が希望を託したところから始まり、1976年「文化大革命」の収束を向かえた後、中国はどこへ向かうのかを問う。?小平は中国の国民を「左」の思想から脱却させ、「改革開放」へと導いた中心人物。 「改革開放」によって中国人の生活水準が「シャオカン小康(中流階級)」にまでなった。
中国独自の社会主義が成就していく姿、愛国主義精神とたぐいまれな指導力と才能、世紀の偉人としての魅力を兼ね備えた?小平氏の激動の半生を描く。

『クレイジー・ストーン 〜翡翠狂騒曲〜』
2006年/中国/35㎜/カラー/シネマスコープ/105分

STAFF
監督・脚本:ニン・ハオ              
プロデューサー:ダニエル・ユー、ゾウ・リン、ハン・サンピン
音楽:ファンキー末吉、ユェン・イ
撮影:デュ・ジエ
美術:ジャン・シャオビン、リ・ヤディン
編集:デュ・ユエン
衣装:ズオ・シ
CAST                           
バオ・シホン:グオ・タオ
ダオ:リユ・フア
マーク:テディ・リン

高価な翡翠をめぐり拝金主義に取りつかれた3組の泥棒と、生活に疲れた中年警備員が四つどもえの攻防を繰り広げ、近年最大のヒットを記録した話題作!!

<解説>
高価な宝石、泥棒のトリオ、ローカルギャング、そして事故を起しやすい警備員が交差したらどうなるのでしょう?それは中国のニン・ハオ監督からの作品、ハイスピードでアクション満載、警句を吐く斬新なアクションコメディ、『クレイジー・ストーン 〜翡翠狂騒曲〜』。

舞台は四川省にある重慶市。破産直前のある工場で、がらくたの中から高価な翡翠のペンダントが見つかったことからコミカルな犯罪物語が始まる。香港の開発業者に工場の売却を迫られていたボスのシェ(チェン・ジェンファ)はペンダントの展示公開を始める。そして、その展示会のセキュリティを元警察官のバオ(グオ・タオ)に任す。
すると間もなく、彼の実の息子(ペン・ボー)から二流泥棒ダオ(リユ・ファ)と彼まぬけ仲間を含む、この“お宝”を何とか自分の物にしようと企む人々の攻防が始まる。

宝石の奪い合いは素早くコミカルなプロットで次から次へと展開し、その “クレイジー・ストーン”は最終的に誰の物になるのか、誰にも推測できない。見る人はきっと映画の最後のフレームまで笑い続ける。本作では、成功を夢見る中国の新世代の人々が大金を得るために様々な手段を講じる姿が描かれている。中国テイストの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』と『オーシャンズ11』。『モンゴリアン・ピンポン』の鬼才監督ニン・ハオによる最新作コメディ。中国で歴史的な興行成績を記録し、香港でも大ヒットした話題作。

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