昨年この世を去った映画監督野村芳太郎は、サスペンスの巨匠という呼称ではとうてい括ることのできない様々なジャンルの作品を遺しており、そのキャリアを繙けば、助監督時代の最後の数年間は川島雄三の良き協力者であり、監督初期の明朗コメディ映画では俳優高橋貞二との名コンビが謳われました。『伊豆の踊子』で人気絶頂の美空ひばりと40日にわたる現地ロケを敢行した後、数年間は会社企画を地道にこなしながら、『張込み』にとりかかるや粘りに粘り半年間もロケ地から戻らない「反乱」を起こします。また『月給\13,000』で助監督山田洋次を共同脚本に抜擢するという慧眼は、同じコンビによる『その恋待ったなし』が、城戸社長の逆鱗に触れ、野村がホサれてしまうという今では想像できない事態を引き起こすことにもなりました。会社の注文をせっせとこなしながら決して従順ではないその姿勢は「松竹ヌーベルバーグの兄」ともいわれる由縁です。
 今回は、『恋の画集』『最後の切札』など上映される機会の少ない作品を中心に秀作を選りすぐり、野村芳太郎という監督の多面性を探ろうという試み。

4月15日(土)→5月8日(月) 三百人劇場にてロードショー