ロバート・クレイスのベストセラー・サスペンスを、ブルース・ウィリスが気に入り、映画化権を獲得、自らが主演で、監督に指名したのは、フランスの新鋭フローラン=エミリオ・シリ、という話題作『ホステージ』のサウンドトラック盤である。シリ監督は、前作『スズメバチ』で世界的に認められ、ほかにもフレンチ・ヒップホップのアーティストの作品を中心にしたビデオクリップの仕事でも有名で、今回もユニークなアングル、編集、そして色彩感覚などで、ウィリスの期待に応えている。
ということで、硬派なストリングス・サウンド中心の音楽を提供したのは、アレキサンドラ・デスプラ。ここのところ、新世代フレンチ・コンポーザーとでも呼びたい作曲家が次々に活躍し始めているが、その中でも、フランス国外からの誘いが最も多いのが、この人である。マルリーン・ゴリス監督の『愛のエチュード』、そしてゴールデングローブ作曲賞ノミネートの『真珠の首飾りの少女』、ニコール・キッドマン主演で、スキャンダラスな話題も振りまいた『BIRTH』、ジョアン・アレンとケヴィン・コスナーが主演した『THE UPSIDE OF ANGER』、そして最新の情報では、ラッセ・ハルストレム監督のカサノバを題材にした新作で、彼に声がかかっていると聞く。
 もちろん、フランス国内では、映画・TVそしてゲーム音楽まで、超売れっ子の状態になっているが、ここで気づくのは、やはりデスプラはキメ細やかな人間ドラマの音楽の職人、というイメージである。一見、アクションものといえば、このシリ監督との2作のみなのである。そして、前作『スズメバチ』の時は、デスプラはなんとラッパーのアケナトンとのコラボレートも行った。とはいえ、アクション映画ファンが期待する音楽をいい意味で裏切るそのタッチは、畳み掛けるビートではなく、悲しげに美しいストリングスを主体にしたものであった。サスペンスだが、あくまで人間を描きたい、というシリ監督の考えが大きくあったのかもしれない。とすると、アクション映画音楽の職人では決してないデスプラとの仕事は正解であった。その延長線上に位置するのは『ホステージ』のサウンドであろう。人間をキチンと描きながらもハードボイルドな視点に立ったこの作品、シリが影響を受けたというハワード・ホークスやサム・ペキンパーの映画を彷彿とさせる一瞬があるとすれば、音楽もまた、当時の硬派アクションを支えたジェリー・フィールディング、バーナード・ハーマン、ラロ・シフリン、マイケル・スモールあたりのサウンドを思わせずにいられない。21世紀のサスペンス・アクションだが、シンセ・ビートはほとんど使用せず、70年代のサスペンス映画を盛り立てていたサウンドのスタイルに近い感触を大切にドラマ音楽として成立させている。同じ人間ドラマでも、男女の機微を描く優しいドラマが多かったデスプラにとっては、今回のように、人間でも、男たちの乾いたフィルムノワールの描写となると、新境地を極めたものとなったに違いない。
(タワーレコード渋谷店 サウンドトラック担当 馬場)

※「ホステージ」サウンドトラックは2005年5月25日発売!(¥2500(tax in))