「もう1度自分を信じ、もう1度人を信じ、もう1度挑戦しよう
・・・あなたは真っ直ぐに生きていますか」
「うまく地雷を踏んだら、サヨウナラ!」1973年11月、友人にこう宛てた手紙を残し消息を絶った若者がいる。一ノ瀬泰造、26歳 アンコールワットへ単独潜入を試みた9年後、両親により遺骨が確認された。
幼い頃より父の影響でカメラを手にした少年は、何よりも写真を撮ることが大好きだった。青年となりインドシナに渡り、戦場カメラマンとなってからも変わらずシャッターを切り続けた。戦いを、戦禍の暮らしを、負傷者を、子供たちの澄んだ瞳を、亡骸を、美しいカンボジアの風景を・・・レンズの先にあるすべてを、彼はまっすぐに捉えファインダーを覗いた。そんな泰造がどうしても撮りたいと願ったアンコールワット遺跡は、当時、反政府軍であるカンボジア解放勢力の聖域だった。危険を冒して何度も潜入を試み、何とかフィルムに収めたいと日に日にその想いを強くしていった泰造。
なぜそこまでして・・・?友人・知人は謎を抱えたまま、それぞれの歳月を重ねた。現地の人々の記憶にはいつまでも彼の思い出が色あせず輝いていた。残された父と母は、遺品 2万コマのネガを焼き続け、浮かびあがる被写体を通して息子に語り続けた。
時代は激動し人も世界もは変わった・・・30年近く経た現代、彼の生き様に惹かれカメラを廻した1人の女性がいる。当時を知る友人・知人や仕事を共にした仲間の証言、息子の写真集を制作しようとする母の信子さんの姿、彼の愛したカンボジアの人々・風景・・・3年間の緻密な取材から生まれたのが、ドキュメンタリー映画「TAIZO」である。
そこには英雄というより、時代に立ち続けようとする等身大の若者の姿があり、名誉や金を求める貪欲さや戦場カメラマンとしての葛藤があった。まっすぐに夢を追い、その夢に命を賭けて精一杯生きようとした思いがあった。彼はなにを見て、なにを求めたのか。そして、わたしたちは今、彼を通して何を感じ、なにを求めているのだろう・・・2005年、一ノ瀬泰造を通して伝えたい物語がある。

2005年6月7日(火)〜16日(木)20時ファンタスティックシアターにてロードショー