ブチ、キレる。

世界を壊しても愛は止まらない!

第44回アジア太平洋映画祭 第29回ロッテルダム映画祭 第24回香港映画際
正式出品作品

『HYSTERIC』
2000年/日本映画/110min/カラー/アメリカンヴィスタ/ステレオ
製作:レジェンド・ピクチャーズ、ベンチャーフィルム
配給:レジェンド・ピクチャーズ/配給協力・宣伝:キネティック
2000年5月テアトル新宿にてレイトロードショー!

<INTRODUCTION>
何度も同じ夢を見せられているような、長く黒いトンネルをくぐり抜けているよ
うな、一人のヒロインの心の彷徨につきあった後に観客が見出すものは、希望と
もいえないくらい淡いけれど、仄かに温かい微かな光である。
現代的なテーマで常に斬新な映像世界を構築してきた鬼才、瀬々敬久監督の最新
作『HYSTERIC』は、人生の軌道を失った二人の男女が強い磁力のような
ものに引き寄せられながら、青春を疾走していく切ないラブ・ストーリーである。
行くところも、為すべきこともない若い男女がデッド・エンドに向かっゆっくり
と下降していく様を、鋭いリアリズムで描きながら、同時にヒロインの心に巣く
う奇妙に歪んで現実感に乏しいシュールな映像感覚で見事に映像化している。
物語のベースとなっているのは、1994年2月に起きた「青学大生殺害事件」とい
う実在の事件である。ひと組の男女が、女の知人の留守中のアパートに無断侵入
して数日間居座り、金に困って隣人を部屋に誘い、衝動的に殺してしまったとい
うショッキングな実話である。監督と脚本の井土紀州は、この男女がもし逮捕さ
れていなかったら、その後どんな人生を送ったであろうかという興味から物語を
発展させていったという。
その眼に破壊的願望が漂う、繊細で、暴力的で、辛抱することが苦手なキレやす
い性格の男、智彰。紡績工場で働きながら保母の資格を取ろうとしているごく普
通の女性、真美。にわか雨から逃れてガード下で出会った時から、二人の人生は
変わっていく。平凡な日常の繰り返しに思われた真美の人生に突如侵入してきた
暴力的な刺激。工場も学校も放棄し、盗難車で暴走し、金に困っては車上荒らし
や空き巣で食いつなぐ智彰に引きずられていく真美。「太く短く生きて死ぬ」と
刹那的に振舞う智彰にとって真美は、自分のステージのたった一人の観客であり、
道連れだった。何度も自分から逃れようとする真美を探し出し、彼女も見つけら
れたことを喜ぶかのように深みにはまっていく関係。これを愛と呼ぶか否か、そ
の答えは観客に委ねられている。
智彰を演じるのは、『ポルノ・スター』(98)の千原浩史。キレたカリスマとし
て、またお笑い芸人として若者の間で絶大な人気のある千原にとってはまたとな
いハマリ役。ヒロインの真美役には、小島聖。『完全なる飼育』(99)『あつも
の』(99)など日本のインディペンデント映画で感受性豊かな演技を披露してい
る女優である。彼女の押さえ気味の演技が、一人の男によって人生を狂わされて
いく真美役に、不思議な説得力を与えている。彼らに殺される隣人役に鶴見辰吾、
真美のかってのボーイフレンドに村上淳。他、寺島進、阿部寛、余貴美子という
日本映画期待のキャストが映画に厚みを加えている。
物語は一本の直線的時間軸を辿るのではなく、事件の当日の日付を円環的に巡っ
ていく。冒頭の事件のシーンにラストで再び戻ってくることで円環を閉じ、今度
は戸外に据えられたカメラから、殺害される隣人と主人公たちの部屋の窓の両方
をのぞき込みながら同じ事件を別のアングルで映し出す。これは様々なジャンル
の作品を手掛けてきた瀬々監督の再生への密かな思いが込められている。そのシ
ョットが、ブルース・スプリングスティーンの名曲『生きる理由』にオマージュ
が捧げられていたことを知れば、その感動もまたひとしおである。

<STORY>
地面から浮いているみたいに、疾走するスポーツカー。風を受けて、心地よさを
超えたスピードを楽しんでいるふたりの男女、真美と智彰。真美は“人よりちょ
っとだけ不幸かもしれない”と心のどこかで思いながらまじめに暮らしていたふ
つうの女の子。ナイーブだけどキレやすい智彰の強引な愛に引きずられて180
度違う世界に飛び込んだ。
「太く短く生きて死ぬ」が口癖の智彰は、未来なんかあてにしていない。「やり
たいことが出来ないのに生きてても仕方あらへん」とうそぶき、働くよりもっと
楽な方法で金を手に入れる。車上荒らし、空き巣、恐喝と、ふたりはその日を楽
しく生きるためにケチな犯罪を繰り返す。ただ、現在を走り抜けるスピード感だ
けがふたりの生きている理由だった。
そんな日々が辛くなり、高校時代に付き合っていた圭二のもとに逃げ込んだ真美。
しかし、追ってきた智彰の姿を見ると、磁力に逆らえないように共謀して圭二か
ら金を脅し取る。真美は自分に言い聞かせるみたいに、「私、変わったんだよ」
とつぶやく。
そして夏、事件は起こる。
帰省中の圭二のアパートに、真美と智彰は忍び込み、同棲生活を始める。金も運
命も尽き果てたふたりは、一枚の紙切れに犯行計画書を書きなぐる。隣に住む青
年を真美が部屋に誘いこむ。そして、智彰が脅して金を奪う。異常な緊迫感の中、
計画書にない事態が三人に起こり、ふたりは青年を刺し殺してしまう。
もう走ることを止められない。自分たちの影から逃げるように加速していくふた
りの行き先に夜明けは来るのか。

<STAFF>
企画:利倉 亮、田中 美孝
プロデューサー:江尻 健司、深谷 登
アシスタント・プロデューサー:関根 浩一、富田 敏家、植木 康夫
脚本:井戸 紀州
音楽:安川 午朗
撮影:斉藤 幸一、中尾 正人、田宮 健彦、三浦 耕、横井 有紀、山崎 詩子
編集:酒井 正次、小田島 悦子
監督:瀬々 敬久

<CAST>
真美:小島 聖
智彰:千原 浩史
隆:鶴見 辰吾
圭次:村上 淳
パチンコ店店長:下元 史郎
刑事:諏訪 太郎
智彰の兄貴分・道夫:寺島 進
智彰の母・時枝:余 貴美子
真美の夫・充:阿部 寛
真美の子供・英紀:広野 健至(子役)
車上荒らしにあう男:アリ・アーメッド
犬をつつく男:伊藤 猛
警務官:飯島 大介
智彰の友人・沙耶:後藤 麻衣
真美の祖父:守田 比呂