3 月 5 日から 10 日間に渡って、映画ファンと最新のアジアの映画との幸福な出会いの場となった第 16 回大阪アジアン映画祭が閉幕した。最終日 の3 月 14 日は、グランプリ以下各賞の受賞結果が発表された。

★グランプリ(最優秀作品賞)
『いとみち』(Ito)日本/監督:横浜聡子 (YOKOHAMA Satoko)

<授賞理由>
今回全員が日本⼈審査委員で、日本⼈監督の作品にグランプリをすんなり渡していいのか議論を重ねました。とはいえデビューから 13 年、横浜聡⼦監督が故郷、⻘森に戻り、深度のある⼈物像を構成したことを、評価しました。定型のフィクションドラマなのにステレオタイプにならない魅⼒がこの作品には満ち溢れています。ヒロイン役、駒井蓮さんの独特の
ビートに心がわき踊りました。

<横浜聡⼦監督コメント>
今回初めて大阪アジアン映画祭に参加させていただいたことだけでも大変喜ばしいことでしたが、映画『いとみち』がグランプリと観客賞をいただくことができたと聞き、素直に驚いております。『いとみち』初回上映時に客席にいながら、「この映画は観客にどんな風に伝わるんだろう?」と幾分緊張しておりましたが、その緊張が、「審査委員の方々やお客様に何かしら伝えることができたのかもしれない」という小さな実感と喜びに徐々に変わり、今じわじわと胸に押し寄せております。共に映画を作った俳優、スタッフ、関係者にこの喜びを早く伝えたいです。審査委員の方々とお客様の決断を心の支えに、映画『いとみち』をより多くの方に観てもらうべく、これからも邁進いたします。コロナ禍が続く中、映画祭開催に尽⼒された関係者の皆様、そして劇場に足を運んでくださった皆様にこの場を借りて改めて御礼申し上げます。ありがとうございました!


★来るべき才能賞
『生まれてよかった』(The Slug)/監督:チェ・ジニョン(CHOI Jin-young) 韓国/

<授賞理由>
思わぬ状況に陥った少⼥が、狭い屋根裏部屋で⼲からびたナメクジを⾒つけ、⼿に取った瞬間から、私たちはこのヒロインを応援せずにはいられませんでした。この少⼥が抱える孤独を、チェ・ジニョン監督は映画の形でしか差し出すことの出来ない方法で描いたことを評価します。


★ABC テレビ賞
『姉姉妹妹』(Sister Sister) ベトナム/監督:キャシー・ウエン(Kathy UYEN)

(c) Muse Films

<授賞理由>
まずはサスペンス映画として、⽂句なく⾯⽩い。丁寧に練られた脚本、快調なテンポ。あれだけの内容を、よくぞこの尺に収めたものだと、感心しました。


★薬師真珠賞
『人として生まれる』(Born to be Human /生而為人)/監督:リー・リンウェイ(Lily LEE/李玲葦) 台湾

<授賞理由>
リー・リンウェイ演じる主⼈公の信じ難いほどのリアリティが、容易ではない主題に挑んだ『⼈として⽣まれる』に圧倒的な説得⼒を与えました。


★JAPAN CUTS Award
『B/B』 日本/監督:中濱宏介(NAKAHAMA Kosuke)

<授賞理由>
今年度のインディ・フォーラム部門の⼊選作は総じてクオリティが⾼く、審査は簡単ではありませんでした。独創的なビジュアルスタイルと⾃信に満ちた演出によって、不公平な世界に対する若者の嫌悪を直感的に描いた『B/B』に JAPAN CUTS Award を授与することができてうれしく思います。中濱宏介監督のデビューと主演のカレンさんの演技は元気を与えてくれました。若い才能の今後に大いに期待しています。


★JAPAN CUTS Award スペシャル・メンション
『4 人のあいだで』(Among Four of Us)日本/監督: 中村真夕(NAKAMURA Mayu)

(c) Omphalos Pictures


<授賞理由>
コロナ禍に起因する孤独というテーマに対する巧みなアプローチが光りました。撮影時の制限を活かしきり、映画言語の⼒を印象的に使って、卓越した演技にも支えられ、テーマが視覚的に表現されていました。

★芳泉短編賞
『イニョンのカムコーダー』(In-young’s Camcorder) 韓国/監督:オ・ジョンソン(OH Jeong-seon)

<授賞理由>
丁寧に積み上げられた感情の抑揚と、その変化に沿った時間の流れ、そして他者との対峙と距離感。カムコーダーの存在により、その世界観が引き⽴ち、全編通してセンスと優しさに溢れた作品。余韻の残るラストシーンに本作だけではなく、監督がこれから携わる映画へのはかりしれない可能性を感じました。

★観客賞
『いとみち』(Ito)日本/監督:横浜聡子 (YOKOHAMA Satoko)


(c) 2021 The Asian Angel Film Partners

クロージング作品『アジアの天使』世界初上映の前に⾏われた舞台挨拶で⽯井裕也監督は、全編韓国ロケで撮影された本作制作のきっかけについて、2014 年釜⼭国際映画祭でパク・ジョンボム監督(『ムサン日記 ⽩い犬』)と審査委員を務めた時に意気投合し、本作でプロデューサーを務めてもらうことになったと明かし、楽しく食べて飲むという韓国の⽂化や⼈と⼈との距離感の近さが、映画の中にも⽣かされていると撮影を振り返った。

また途中、出演のチェ・ヒソさんのビデオメッセージが紹介された。
「国を超えて家族になる旅を描いた作品ですが、そのテーマが映画でアジアをつなげる橋として毎年⾏われている大阪アジアン映画祭に似ていると思いました。個⼈的にも 2018 年の『⾦⼦⽂⼦と朴烈』から毎年私の最新作を上映していただき、私にとってすごく意味のある特別な映画祭です。この映画は、⽯井裕也監督、池松壮亮さん、オダギリジョーさん、そして韓国の俳優、スタッフのみなさんと2ヶ月間、同じ韓国の食べ物を食べ、同じ空気を吸い、同じ海を⾒ながら、⼀つの心で作り上げました。そんな私たちの思いが、皆さんに伝わってほしいと思います」
過去、大阪アジアン映画祭に2度来場したチェ・ヒソさんの笑顔に観客から大きな拍⼿が送られた。

チェ・ヒソさんのビデオメッセージ

最後に⽯井監督から「この映画は、言葉も国籍も違うけれどみんなで集まって、⾃由な⼈間関係、コミュニティが作れればいいなと思って撮りました。今は不⾃由で息苦しい世の中ですが、そういう時代にふさわしい作品ができたと⾃負しています。ぜひお楽しみください」と⼒強い挨拶があり、クロージング作品『アジアの天使』世界初上映が⾏われた。
本作は 7 月 2 日から全国順次公開予定となっている。

石井裕也監督

オンライン上映「大阪アジアン・オンライン座」は 3 月 20 日(土)まで開設。好評を博した過去上映作品7作に加え、3/14(日)21:00 ~ 3/16(火)21:00の48時間限定で『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』『チマキ売り(デジタル・リマスター版』を上映する。