イタリア映画界の偉大なる巨匠、ルキノ・ヴィスコンティが誕生したのは、1906年の11月2日。
その作風は、華麗で美術性の高い作風が特徴。
『ベニスに死す』、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、『夏の嵐』など、多くの名作を生み出してきた彼の代表作と言えば『山猫』だろう。ジュゼッペ・トーマス・ディ・ランペドゥーサの小説「山猫」を原作とし、19世紀半ばのカターニャを舞台に、山猫の紋章を持つサリーナ公爵家の没落を描いた本作品は、第16回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得。自らも貴族の末裔であるヴィスコンティが、唯一自身を語った意味でも代表作中の代表作であり、フランシス・フォード・コッポラ、ベルナルド・ベルトルッチ、マーティン・スコセッシら後の巨匠に大きな影響を与えた作品でもある。

しかし、実はこの作品の源流ともいうべき、小説の存在はあまり知られていない。小説の名前は「I vicere(副王たち)」。
その作者は、フェデリコ・デ・ロベルト。「山猫」が19世紀半ばのイタリア貴族の没落を描くのに対し、「I vicere(副王たち)」は同じ激動の時代をしたたかに生き抜く、やはり同じく名門の貴族の姿を描いている。1894年に出版されたこの小説は、ランペドゥーサによる「山猫」(1958出版)に多大な影響を与えたと言われ、『山猫』で名優アラン・ドロンが演じた「タンクレディ」という役名も、「I vicere(副王たち)」に登場する少年の名前にちなんでいると言われている。
この幻の小説の映画化は、ヴィスコンティの悲願だったが、「I vicere(副王たち)」には教会と政府への批判がこめられていたため、イタリア政府によって映画化の許可が下りないばかりか、その存在さえも黙殺されていた。しかし、近年の再評価によって、筆者であるフェデリコ・デ・ロベルトは「イタリア文学史上もっとも偉大で、最も正当な評価を受けていない作家」と言われている。

 今回、100年の時を経てこの幻の小説を映画化したのは、ヴィスコンティによってこの小説の存在を知らされた、イタリア映画界の実力派、フェデリコ・デ・ロベルト。彼は、「ヴィスコンティやロッセリーニも映画化を熱望したこの幻の小説を、映画化するのは一つの挑戦だった」と語っている。衣装はアカデミー賞衣装賞を3度受賞したミレーナ・カノネロ。イタリア・アカデミー賞4部門受賞の豪華絢爛、イタリア版華麗なる一族。
 ヴィスコンティ悲願の幻の小説の映画化。イタリアの至宝とも言われる『山猫』とぜひ対比してご覧いただければと思います。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=47674

執筆者

Yasuhiro Togawa