シネマアートン下北沢にて6月2日より開催される「プロジェクトINAZUMA 1st harvest」は、プロジェクトINAZUMA(映画美学校で講師を務めるプロの映画人が結成した映画製作・上映集団。メンバーは西山洋市、大工原正樹、常本琢招、井川耕一郎、和田光太郎(上映担当))が贈る上映イベント。
痛い恋愛を描いた『INAZUMA稲妻』『赤猫』、痛い青春を描いた『みつかるまで』『寝耳に水』。これら4作品は、渋谷ユーロ・スペース、アテネ・フランセ文化センターの特集上映などで数回上映され、その際に多くの批評家・映画作家が絶賛、未公開にもかかわらず年間ベスト10上位に選出されるなど、いずれも高い評価を受けました。しかし、その後上映される機会がほとんどなく、その存在を知る映画ファンから正式な公開が待ち望まれていた作品。
4作品それぞれの主演には現在その活躍が注目されている女優たち、板谷由夏(内田けんじ監督『運命じゃない人』他)、長宗我部陽子(サトウトシキ監督『迷い猫』他)、森田亜紀(森岡利行監督『問題のない私たち』他)、宮田亜紀(高橋洋監督『ソドムの市』他)など。
男優には、水橋研二(塩田明彦監督『月光の囁き』他)、李鐘浩(阪本順治監督『亡国のイージス』他)、劇団ベターポーヅの山崎和如、アーティストの松蔭浩之など、現代美術や舞台といったフィールドでも活躍する彼らが、ひと癖もふた癖もある男たちを演じています。
第一線のスタッフ
スタッフには、撮影の芦澤明子(黒沢清監督『LOFT』、万田邦敏監督『UN loved』他)、志賀葉一(清水崇監督『富江re-birth』他)、福沢正典(小沼勝監督『輪舞』他)、録音の臼井勝(塩田明彦監督『害虫』他)など、第一線のプロが監督の求めに応じて参加しています。

■上映作品紹介

●『INAZUMA 稲妻』(05年・DV・30分)
監督:西山洋市、脚本:片桐絵梨子、撮影:芦澤明子
出演:松蔭浩之、宮田亜紀、西山朱子、布川恵太

<作品解説>
刀の傷があなたを忘れさせない。
真剣勝負が彼女の憎しみを激しい愛へ変えていく。

「現代劇に、アクション物とは違うコンセプトで『チャンバラ』を導入しようと思った」(西山洋市)。冒頭、問答無用で始まる無国籍時代劇——それは主人公たちが出演するTV映画だった。しかし、撮影現場以外での彼らの生き様と映画内での演技の間に、質の違いはまったくない。彼らは常に戦士として苛烈な人生を送っているのだ。

<あらすじ>
ドラマの撮影中、セリ(宮田亜紀)は加島(松蔭浩之)の刀で頬を斬られた。傷の火照りを鎮めるために、加島に仕返しをしよう。撮影現場に戻ったセリは加島に戦いを挑むが、彼が持っていたのは模造の刀だった。「真剣じゃないと、しらけるじゃない!」。セリの叫びが加島の心をつらぬき、真剣勝負の幕が開く。二人を衝き動かしているのは、強い憎しみなのか、それとも激しい愛なのか。

西山洋市(にしやま・よういち):1959年生まれ。TVドラマ『おろし金に白い指』(91)で監督デビュー。主な監督作品に『ぬるぬる燗々』(96)、『稲妻ルーシー』(04) など。

●『赤猫』(04年・DV・43分)
監督:大工原正樹、脚本:井川耕一郎、撮影:福沢正典
出演:森田亜紀、李鐘浩、藤崎ルキノ、永井正子、植岡喜晴

<作品解説>
ふと芽生えた幸せな生活への疑問。
心に灯った不安の火が別のわたしを目覚めさせる。

夫は風呂の水につかった電球を引き上げると、タオルでそっとぬぐう。まるで失われた我が子の命を悼むかのように。だが、その後、妻が淡々と語る流産に至る経緯を聞き、慄然とする……。夫の目の前で妻が未知の他者に変貌するサスペンス。「森谷司郎監督『放課後』に登場する地井武男と宮本信子の夫婦をモチーフに、夫婦であることに潜む危機を異類婚姻譚のように描きたいと思った」(大工原正樹)。

<あらすじ>
ある日、千里(森田亜紀)はネコアレルギーの症状が出て息苦しくなる。マンションに猫などいるわけがないのに、一体なぜ? 夫の内村(李鐘浩)が誰かの部屋で猫と遊んで帰ってきているのだろうか? 幸せだったはずの千里は夫の不倫を疑うようになり、やがて心に灯った不安の火は彼女の中にいるもう一人の自分を目覚めさせる。「火の匂い……わたしの中の、わたしの知らない匂い……」。

大工原正樹(だいくはら・まさき):1962年生まれ。『六本木隷嬢クラブ』(89)で監督デビュー。主な作品に『のぞき屋稼業 恥辱の盗撮』(96)、『風俗の穴場』(97)、TVドラマ『七瀬ふたたび』(00)など。

●『みつかるまで』(02年・16mm・45分)
監督・脚本:常本琢招、脚本:藤田一朗、撮影:志賀葉一
出演:板谷由夏、水橋研二、奈良坂篤、諏訪太朗

<作品解説>
心震える瞬間がほしい……。
本当の自分を見つけるため、わたしは彼と列車に飛び乗る。

水橋研二は気弱な笑みを浮かべ、女の肩にもたれかかり目を閉じる。板谷由夏は挑戦的な視線を世界に向けてまっすぐ投げかける。男らしさ・女らしさから脱した演技を通して、新たな愛の形を探る作品。「1970年代前半に作られた東宝青春映画の、脆弱ではあるが繊細な作品世界。いまは受け継ぐ者がいなくなったその世界の再現を狙った」(常本琢招)。

<あらすじ>
「世界が震えるような特別な瞬間をつかみたい」。高い理想を抱いて絵を描いてきた画家・芳美(板谷由夏)は挫折して自分を見失い、電車の中で盗みを働く日々を送っていた。そんな彼女の前に現れた謎の青年・哲史(水橋研二)。だが、彼は今の芳美が本当の彼女ではないと見抜く。彼となら特別な瞬間がつかめるかもしれない。芳美は哲史と一緒に列車に飛び乗り、町を出て行こうとするが……。

常本琢招(つねもと・たくあき):1963年生まれ。『制服本番 おしえて!』(90)で監督デビュー。主な作品に『黒い下着の女教師』(96)、『健康師ダン』(98)など。

●『寝耳に水』(00年・16mm→DV・32分)
監督・脚本:井川耕一郎、撮影:大城宏之
出演:長宗我部陽子、山之内菜穂子、清水健治、山崎和如
<作品解説>
消し去りたい失ったことの痛み。
わたしを忘れないで、と彼女は死後も彼の耳に囁く。

「痛い、痛い、一緒にいたい……」。恋人の部屋でふいにそう呟いた弘美(長宗我部陽子)は、数日後、交通事故で亡くなってしまう。一体、あの言葉は何だったのか? 弘美は死を予感していたのか? 長島(山崎和如)は彼女を失った痛みを忘れようとするが、あるとき、雑誌の投稿欄に彼女の名前を見つけてしまう。彼に呼びかけているかのようなその投稿はあの世からのメッセージなのか……。

井川耕一郎(いかわ・こういちろう):1962年生まれ。主な脚本作品に、渡辺護『片目だけの恋』(04)、TVシリーズ『ダムドファイル』など。最新監督作は『西みがき』(06)。

■公式サイト
http://www.project-inazuma.com/