≪中国映画の全貌2006≫開催にあたって

 三百人劇場での「中国映画の全貌」開催は今回で7回目です。1990年4月、第1回開催から17年が経ちました。この間に中国は大きな変貌を遂げています。ご存知のように、市場経済を導入した中国経済は眠れる大国から本物の大国への転換に成功しました。戦後日本の復興にその足跡は似ています。オリンピック、万博が2008年北京、2010年上海で、それぞれ開かれることによって、その息吹は世界に知らされることでしょう。1964年東京、1970年大阪でオリンピック、万博を開催し日本が急成長を世界に知らしめたように。

 映画製作も、その流れの中で変化していきました。かつて、国営製作所で製作し国営配給会社で統一配給、採算は国が責任を取るという“よき時代”は2000年を境に終わりを告げ、今や各製作所は独立採算になり、製作プロダクションが企業の出資を得て映画を作っています。一方、80年代中ごろ283億人の動員を誇った映画産業もテレビ、ビデオ、ゲーム機、パソコンの普及によって全盛時代の4分の1以下に激減しました。80年代世界に飛び立ったチャン・イーモウ、チェン・カイコー、ティエン・チョアンチョアンら第5世代の監督たちも、もう50代半ば、ベテランと呼ばれる年代にさしかかっています。

 阿片戦争で幕を開けた中国の近代史は、2度の大戦、国の体制の変化、内戦、中華人民共和国の成立、文革、高度経済成長とどの国も体験しない歴史の大波に揉まれ続けました。いろいろ批判や矛盾は孕んでいますが、中国統一以来、今が一番安定した政権であると語る中国人の方もいます。確かに、外敵からの侵略に悩まされていた中国の国民にとって、今の中国は史上一番の平穏と言えるのかもしれません。

 「中国映画の全貌2006」のラインナップは、阿片戦争から始まった中国近代史、日中戦争、中華人民共和国建国そして文革、経済成長における庶民の心の変化と“生の真の中国の姿”を捉えた作品を網羅しています。
 新作は2本。今の中国経済の礎を作った?小平に密着した貴重な映像記録『ニーハオ?小平』、社会主義国らしく多少“ヨイショ”ですが、日本にはなじみの薄い近代史の巨人の姿を切り取っています。もう1本の新作『ようこそ、羊さま。』は、?小平の政策が遠因となっている経済成長のひずみの中で振り回される庶民とご都合主義の官僚の姿を風刺して、不思議なユーモアを醸し出した絶品の佳作に仕上がりました。好対照の2本と言えるでしょう。

 この企画をもって三百人劇場の映画企画は終焉となるそうです。再開発で劇場の存続が今年いっぱいということで、年末まで演劇の企画はありますが、映画は“中国映画の全貌2006”の開催が最後になります。劇場とスタッフの皆様、長い間ありがとうございました。

中国映画の全貌2006上映予定作品

新作:『ようこそ、羊さま。』『ニーハオ?小平』
文革:『芙蓉鎮』『子供たちの王様』『青い凧』『さらば、わが愛/覇王別姫』『太陽の少年』『初恋のきた道』『小さな中国のお針子』『追憶の上海』
戦争の歴史:『紅いコーリャン』『乳泉村の子』『鬼が来た!』『未完の対局』『阿片戦争』
文芸もの:『駱駝の祥子』『阿Q正伝』『春の惑い』『五人少女天国行』
アラカルト:『盗馬賊』『古井戸』『菊豆』『あの子を探して』『北京ヴァイオリン』『山の郵便配達』『 再見のあとで』『心の香り』『双旗鎮刀客』『哀戀花火』『イチかバチか』『愛にかける橋』『思い出の夏』『北京の天使』『青島アパートの夏』『栄光のフォワードNo.9』
以上、34本。