『パラダイス・ナウ』でアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭ヨーロピアンフィルム賞を受賞し、続く『オマールの壁』でも再びアカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされたハニ・アブ・アサド監督の最新作、『歌声にのった少年』が9月24日より、新宿ピカデリーほかにて公開されます。

紛争の絶えないパレスチナ・ガザ地区で暮らしていたムハンマド少年の夢は “スター歌手になって世界を変える”こと。姉や友人とバンドを結成し、ガザの町中で歌っていました。やがて青年になったムハンマドは、その夢を叶えるために命がけでガザから抜け出し、人気オーディション番組に出場します。本作は、全米の人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」のエジプト版、「アラブ・アイドル」に出場し、見事2013年の“アラブ・アイドル”に輝いたムハンマド・アッサーフの実話を元にした感動のサクセスストーリーです。
『オマールの壁』に続き、本作もパレスチナで撮影を行ったハニ監督。撮影の一部は、2014年のイスラエル軍による空爆の傷跡が残るガザ地区でも行われました。イスラエル当局による厳しい監視下にあるガザ地区での映画撮影は、通常の撮影以上に様々なトラブルが発生していたようです。

まずは、撮影場所の問題。ガザ地区での撮影許可を得るために、監督やスタッフは3、4ヶ月間毎日イスラエル当局の担当者に電話をかけ続けましたが、ガザで撮影できた日数はたったの3日間。そのため屋外のシーンはガザ地区で撮影し、それ以外のシーンはパレスチナ自治区内の別の場所をガザに見立てて撮影する必要がありました。
次に出演者の問題。ガザで暮らす子どもたちを演じられるのは、実際に暮らしている子どもたちだけだと考えたハニ監督。ガザ全域の学校でオーディションを開催し、数百人の参加者の中からムハンマドの少年時代を演じたカイス・アタッラー、姉ヌール役のヒバ・アタッラー達を選びました。しかし、子どもたちが撮影のためにガザ地区の外に出る許可が出たのは、撮影開始のわずか2日前。十分なリハーサル時間がとれないまま撮影を開始するしかなかったそう。さらに撮影がはじまってからも、出演者が検問や境界を抜けられず現場に到着できないというトラブルが頻発。その度に撮影スケジュ—ルの変更が必要だったそうです。

このように、パレスチナ・ガザ地区での撮影は、通常の撮影では考えられないトラブルがつきもの。しかし、そんなトラブルだらけの状況で製作された本作からは明るいニュースも生まれています。なんと、姉ヌール役を演じた、ヒバ・アタッラーちゃんは、本作の出演料を使いガザから抜けだして家族でオランダへ亡命!歌の力でガザの壁を超えたムハンマド・アッサーフの人生を描いた本作の舞台裏では、一人の少女が演技の力でガザの壁を超えていました。

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執筆者

Yasuhiro Togawa