まるでジェームズ・ディーンを彷彿とさせる甘いマスクを持つ伝説のトランペット奏者チェット・ベイカーの、その波乱の人生をイーサン・ホークが渾身の演技で挑みオスカー有力と絶賛を浴びた話題作、映画『ブルーに生まれついて』(ポニーキャニオン配給)が、11月26(土)より Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿他にて公開になります。

 1950年代のウエストコースト・ジャズシーンを代表するトランペッターにしてシンガーのチェット・ベイカー。黒人アーティストが主流のモダン・ジャズ界において、あのマイルス・デイヴィスをも凌ぐ人気を誇ると言われ、一斉を風靡。甘いマスクとソフトな声で多くのファンを魅了したが、麻薬に身を滅ぼし過酷な日々を送っていた・・・。本作は一人の天才ミュージシャンの転落と苦悩を描くとともに、ある一人の女性との出会いによって再生する姿を描いたラブストーリーである。主演のイーサン・ホークは6カ月に及ぶトランペットの集中トレーニングを受け、歌も披露。『6才のボクが、大人になるまで。』にて2度目のアカデミー賞助演男優賞にノミネートされるなど今、最も俳優としてノリに乗っており、本作で再び主演男優賞にノミネートされると批評家が絶賛するほどの迫力の演技を見せた。チェットを題材にした映画には、写真家ブルース・ウェーバーによるドキュメンタリー映画『レッツ・ゲット・ロスト』(89)が有名であるが、25年を経てまたひとつ新たな伝説となる映画が誕生した。劇中にはイーサン・ホークが歌う「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」をはじめ「レッツ・ゲット・ロスト」「虹の彼方に」「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」など数々の名曲が登場し、しっとりと本編を彩っている。

 あなたは自分のことを、ダメな男だと思いますか?ダメな男と付き合っているなと思いますか?どの時代にも、社会的にダメな男は存在する。そして、ダメな男と分かっていながら全力で尽くす女もまた存在する。

この映画『ブルーに生まれついて』の主人公チェット・ベイカー(イーサン・ホーク)と恋人ジェーン(カルメン・イジョゴ)もまた、その関係なのである。甘いマスクにソフトな歌声、トランペットのロマンティックな音色を操り、1950年代のウェストコースト・ジャズシーンを代表する存在へとなっていくチェット・ベイカー。しかし彼は陰でクスリに手を出し、信頼を失ってしまう。そんな中、決して離れずにそばにいてくれた恋人ジェーンの献身的な愛に支えられ、彼は音楽を取り戻し復活を目指すこととなる。

チェットは、自身の心の弱さをカバーするためクスリに手を出すという、社会的にダメな男である。にもかかわらず、ジェーンはそんな彼にメロメロ。場面写真の1枚では、誰もいない海岸沿いで柔らかに刺す日差しと海風を浴びながら唇を寄せ合っている。まるで世界は二人だけのものかと思わせるほどロマンティックな光景だ。なぜジェーンは彼を愛してしまうのか?
2枚目の場面写真を見てみると、暗い部屋にトランペットを持ち、独り物哀しげにソファに座るチェットの姿が写っている。ジェーンは、孤高に音楽の才能を磨く彼の姿を見て、そばにいて支えてあげなければと思ってしまったのかもしれない。

また、3枚目にはジェーンに髪の毛を整えてもらっているチェットの姿が写ている。音楽の才能はあるが、それ以外何もできない、甘えん坊で不器用な男なのだと伝わる。そんな彼の姿を見て、「私がいないと、、、」と考えてしまう。そんな女性だからこそ、チェットを支え、寄り添え続けられたのであろう。

なぜこんなにもダメな男に、いつの時代も女は惹かれてしまうのか。やはり、才能は最強の魅力、、、そう思わざるを得ない。

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執筆者

Yasuhiro Togawa