2013年公開の『シリーズ1〜被曝〜』(文化庁映画賞優秀賞)、2014年公開の『シリーズ2〜異変〜』、2015年公開の『シリーズ3〜拡散〜』に続く、動物映画の巨匠・岩崎雅典監督の最新作『福島 生きものの記録 シリーズ4〜生命(いのち)〜』が10月15日よりポレポレ東中野にて劇場公開されます。

1940年生まれの岩崎雅典監督は、長年、野生動物や地球環境をテーマに、記録映画、テレビ番組を制作してきました。テレビでは「野生の王国」(毎日放送)、「生きもの地球紀行」(NHK)、「素敵な宇宙船地球号」(テレビ朝日)など、映画作品では『イヌワシ 風の砦』『ニホンザル モズ 二十六年の生涯』などの代表作があります。

2011年に起きた東日本大震災によって起こった福島第一原発事故による放射性物質の拡散は、それまで動物の生態・そして生命を作品で追い続けてきた岩崎監督を奮い立たせました。放射能汚染が危険であるならば、人体への影響よりも早く、人間より小さな野生生物に影響が出るはずだ。これを誰もやらないなら自分がやるしかない。岩崎監督、70歳の夏でした。

福島原発事故は史上初めて人間以外の霊長類が被ばくした事故と言われています。つまり、チェルノブイリやスリーマイル付近には生息していなかったサルの被ばくです。2011年に生まれたニホンザルの子どもが成長して子どもを産むまでには5年から6年かかると言われています。岩崎監督は、少なくともこのシリーズを5年続けて、事故後に生まれたサルが子どもを産むところまで撮り続ける決心をしています。2013年に完成したシリーズ1から毎年、制作と公開を繰り返し、今回4作目の「シリーズ4〜生命〜」が完成しました。岩崎監督らクルーは現在も撮影を続けており、シリーズ5も来年の完成を予定しています。福島第一原発の事故後、これほどまでに制作を継続し、コンスタントに上映を続けているシリーズは類を見ません。

岩崎雅典監督の冷静な視線は、単に原発事故の被害や、その政府や行政の対応を批判するのではなく、また、放射能汚染が危険であるという盲目的な仮定に基づくわけでもなく、今現在福島を中心とした東日本に生息している生命体に起きていること、もしくは起こっていないことをロジカルに記録しています。
決して感情的になることになかった本シリーズですが、今回は映画の終盤、人間と動物の関係性が明らかに変わってしまったことを描いています。そのシーンは私たち人間が起こしてしまった事態に対して、誰しもが感情的にならざるを得ない強烈なシーンとなっています。

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執筆者

Yasuhiro Togawa