65歳以上の男性の5人に1人、女性の2人に1人が独身という昨今、熟年婚活の倍増に目を付けて、金持ち男の後妻に入り財産を奪うのが、<後妻業の女>。そんな<後妻業の女>をテーマにした、直木賞作家・黒川博行による小説「後妻業」を原作に、ドラマや映画で多くの社会派作品を手がけてきた名匠・鶴橋康夫が映画化した『後妻業の女』は、8月27日(土)に全国318スクリーンで公開され、公開から4日間(8月30日まで)で早くも観客動員数約30万人を記録するヒットスタートをきっています。

そんな本作がこの度、「第40回モントリオール世界映画祭」(8月25日〜9月5日)の“World Greats”部門にて上映されました。モントリオール世界映画祭は1977年に設立されたカナダ最古の国際映画祭の1つであり、国際映画製作者連盟(FIAPF)によって認められたコンペティション映画祭。毎年80を超える国と地域から集められた映画を上映し、日本映画を多く紹介している映画祭でもあります。
8月30日(現地時間)の公式上映にあわせて、『後妻業の女』主演の大竹しのぶと鶴橋康夫監督は現地入りし、上映に先駆けてモントリオール市内各所を周りました。旧市街のメインストリートであり、モントリオールで最も古い路地の一つであるサン・ポール通りや、旧市街最大の見どころであるノートルダム大聖堂を訪れた大竹は、「モントリオールは初めて来ましたが、ヨーロッパ的で綺麗な街ですね。食べ物もおいしいし、人も親切だし、もっとゆっくり滞在したい…」と、当地の感想を語りました。
また映画祭を前にして大竹は、「どんな方々が観にいらっしゃるのかとても楽しみです。笑いの中に怖さがあるこの作品の魅力が海外の方にも伝わることを願っています」と期待を膨らませていました。

会場となったのは、1913年に建てられた歴史ある映画館「シネマ・インペリアル」。2001年に歴史的建造物の指定を受けた本劇場にて19時すぎから行われた上映には600人もの観客が来場しました。会場前には200人を超える列ができ、劇場スタッフによると、近年稀にみる長蛇の列であったとのこと。本映画祭のメインの客層である年配層を中心に、強くて悪い女性にスポットをあてた人間喜劇であるこの映画のテーマに興味を持った10代・20代の女性客も多く見られました。

上映前の舞台に登壇した鶴橋監督は、
「フランス語でしゃべれないのが残念です。憧れのモントリオールです。(会場:拍手) たくさんの方に来ていただいて本当にありがとうございます。ホテルの前にいましたら、日本でも声をかけられないのに『監督さん!』と声をかけられました。日本出身の女性の方々で、『モントリオールは文化の街で、女性が非常に強い地域である。だから私たちは住みやすい』とおっしゃっていました。(会場:拍手) 大竹しのぶさんは長い間、私が一番愛している女優さんです。そんな彼女と今回この映画を作ってみました。原作はハードボイルドですが、コミカルなユーモアのある作品にしようと考えて作りました。観ていただいてどんな感想を持ったか、是非聞かせてください。」と述べました。
大竹は冒頭をフランス語で、「Mesdames et messieurs, bon soir! Je m’appelle Shinobu OTAKE.(みなさん、こんばんは。私は大竹しのぶです。)」と挨拶し、続けて「ここまでしかしゃべれません(会場:笑)。16時間くらいかけてモントリオールに来ました。とても美しい街でビックリしています。文化も言葉も違う方々に、私たちの映画がどう受け入れられるのか少し不安です。私は(映画の中で)男の人をいっぱい騙してお金を奪う悪い女なのですが、誰もが実は、愛を求めていることを感じてもらえるととても嬉しいです。ここに来てくださった方々に感謝します。Merci beaucoup(どうもありがとうございました)!」と語りました。

上映中は、大竹しのぶ演じる“小夜子”の台詞の度、また“小夜子”の一挙一動に笑いが起き、最後の最後まで笑いが絶えることはなく、まさに鶴橋監督が手掛ける喜劇が海外でも受け入れられた証といえます。上映後、会場が割れんばかりの拍手で送られた大竹と監督は、ロビーにてたくさんの観客に囲まれ、サインや写真の求めに応じていました。

モントリオール世界映画祭を終えたコメント
≪大竹しのぶ≫
英語字幕なので、関西弁のニュアンスが伝わりづらいのではないか、と心配していましたが、観客の皆さんはそれを越えてよく笑ってくれました。ロビーで観終わった方々の感想も聞きましたが、なかには「癒された」と言う人もいて、なんでだろう…?
今日初めてお客さんと一緒に映画を観て、「こんなに笑ってくれるなんて!」と驚きました。皆さん細かい部分でも笑ってくださって、反応が嬉しかったです。
モントリオール世界映画祭のあたたかかい雰囲気が味わえてよかったです。会場に着いた時、たくさんの人が並んでいて、どんなところに興味を持って来てくださったのか聞きたくなりました。

≪監督:鶴橋康夫≫
日本とはまた違った反応、受け取り方が面白かったです。英語の字幕も新鮮でした。自分の作品に字幕が付いているというのは不思議な気分です。
お客さんたちが笑ってくださったのがとにかく嬉しかったです。なんだか今日はともて褒められました。今度はコンペティション部門を狙って、またこの映画祭に来たいですね。主演はもちろん大竹さんです。

観客の感想
◆60代女性
とても楽しみました。大竹しのぶさんの演技が特に素晴らしかったです。

◆40代男性
すごく面白かったです。笑いました。同時にこのような犯罪を通して日本社会の新たな側面を垣間見ることができ、興味深かったです。

◆30代女性
非常にドラマティックな作品だと思いました。

◆40代女性
小夜子の良い面、悪い面を楽しみました。サスペンスの要素もあり、とても面白かったです。大竹しのぶさんの演技が時には可愛らしく、時には憎たらしく、まさに彼女の映画だと言えると思います。

◆60代男性
主人公を演じた大竹しのぶさんの演技力、特に表情の演技がとても良かったです。

◆20代女性
大竹しのぶさんの感情表現が見事でした。

◆10代女性
とてもドラマティックなコメディーだと感じました。ジョークかと思えば、本当に怖い部分もあり、人の感情を揺さぶる映画だと思います。小夜子という人物は人を惹きつける魅力にあふれた人物でした。

◆メキシコ人ジャーナリスト クリスティーナ・ボイレス(74歳)
まずは、大変素晴らしい映画でした。39年間映画祭に来ていますが、最近の映画の中では一番楽しみました。大竹しのぶさんの演技がとても素晴らしく、舞台挨拶ではとても可愛らしかったのに、映画の中では大変な悪女で、驚きました。予想できない展開で面白かったです。

◆メキシコ人ジャーナリスト レオ・ポルドソト(59歳)
社会風刺も盛り込まれ、すごく知性的なコメディーだと思いました。年配の方々を描いた映画ですが、考え方によっては世代を限ることなく家族でも楽しめる作品なのではないでしょうか。小夜子の、そして大竹しのぶさんの特別な魅力は十分観客に伝わっていたと思います。

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執筆者

Yasuhiro Togawa