『岸辺の旅』で2015年カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞、公開中の『クリーピー 偽りの隣人』はベルリン国際映画祭に正式出品され、
好評を博すなど、世界中に熱狂的な支持者を持つ黒沢清監督が、初めてオール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた
最新作『ダゲレオタイプの女』が10月15日(土)からヒューマントラ ストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開となります。

本作で描き出すのは、世界最古の写真撮影方法である「ダゲレオタイプ」が引き寄せる愛と死の物語——。
「ダゲレオタイプ」といえば、今年木村伊兵衛賞を受賞した新井卓氏の写真集 「MONUMENTS」もダゲレオタイプで撮影されたもの。
湿版写真館がメディアに取り上げられていたり、氷室京介氏がダゲレオタイプ付き完全限定受注生産の写真集を発売するなどの、
若者のインスタントカメラへの人気やアナログのカメラブームが起こりつつある昨今。
そもそもダゲレオタイプって一体なに?世界で一番古い撮影方法だからこその、珍しい特徴をご紹介致します。

① 19世紀初頭に、フランスで生まれた世界最古の撮影方法
坂本龍馬や土方歳三などの有名なポートレイト写真は、江戸時代に流行った湿版写真で撮影されています。
その湿版写真は、この“ダゲレオタイプ”に改良・改善を重ね、ガラスに焼き付けるものでした。そんな湿版写真が生まれるまでに使われていたのが、
この“ダゲレオタイプ”であり、ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、1839年8月19日にフランスにて発表された世界で初めての撮影方法です。
そのために8月19日は「世界写真の日」といわれています。今年で177周年となりました。
この撮影法が生まれるまでは、世の中には絵を描くことしか目で見た物とを収めれなかったために、
発表された当時、自らの姿を収めることができる初めてのメディアとして、人々は“ダゲレオタイプ”に大興奮しました。
日本で現存する最古の肖像写真は、1857年(安政4年)に写された島津斉彬(しまづ なりあきら)の写真だと言われています。
また、日本カメラ博物館では、世界に数台しか現存していない、世界で初めて市販されたカメラ、「ジルー・ダゲレオタイプ・カメラ」が展示されています。

② 『写真を撮るとは命を削りとること』と言われていた
ダゲレオタイプ開発初期は、光を取り入れる技術が発達していなかったために、撮影には多くの時間を要しました。
風景写真を撮る場合、露光中に動いたものの像は、写真には残りません。人通りの多い場所をダゲレオタイプで撮影してみると、誰もいない通りが映しだされるのです。
そのために像を銀板に映しとられる被写体は長時間にわたる拘束を強いられることとなり、「写真を撮るとは命を削りとること」と思われるほど、
モデルになる者は命がけで被写体になっていました。また、“被写体が動かないこと”が撮影条件だったことから、死者の撮影が行われることも多々ありました。
早くして亡くしたわが子を記念に撮影する親など、今の時代より圧倒的に早くに訪れてしまう死を、高価な記念写真を撮影することにより、悲しみを安らげていたといいます。
この“ダゲレオタイプ”という撮影は、被写体と撮影者の愛情交感であり、束縛でもあるといえるでしょう。
本作では、写真家・ステファンが自身の古い屋敷で自分の娘・マリーを被写体に、“ダゲレオタイプ”の撮影をしています。

③ 世界にひとつしか残らない写真
“ダゲレオタイプ”は、ネガを作らずそのまま像を映すので、完成した像は左右逆転します。また直接銀板に焼き付けるため、撮影した写真は世界にひとつしか残りません。
銀板に像を映す作業の際には、水銀など人体に害を及ぼすものを使用するため、被写体だけではなく、撮影者も命の危険を伴う作業を行います。
ゆえにダゲレオタイプを取り扱える者も多くはいません。また完成品は、 角度によってネガにもポジにも見えるのがダゲレオタイプの特徴です。

今、改めて注目を集める世界最古の写真撮影方法“ダゲレオタイプ”が引き寄せる愛と死——。
そんな“ダゲレオタイプ” を軸に、“永遠” を求める写真家の父、その犠牲となる娘、そして“撮影”を見守る助手を主人公に置いた、
これまでにないホラー・ラブロマンスが完成しました。劇中では、ダゲレオタイプの撮影や現像シーンも満載!ダゲレオタイプのすべてが分かるかもしれません。

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また、冒頭で紹介いたしました、写真集『MONUMENTS』で今年の木村伊兵衛賞を受賞した、
ダゲレオタイプの写真家である新井卓氏から今作に向けたコメントが到着しました!

ひとの生の時間を奪い去る<写真>は、なんと罪深いことだろうか。
美しい身体を借りた人形浄瑠璃。白昼の夢は、いつ果てるともなくつづく。
−新井卓(あらいたかし) 写真家/ダゲレオタイピスト

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執筆者

Yasuhiro Togawa