この度、台湾のアカデミー賞こと「金馬奨」で最優秀ドキュメンタリー作品にノミネート、大阪アジアン映画祭2016では観客賞を受賞した、2015年の台湾でもっとも話題になったドキュメンタリー映画『湾生回家』が11月12日(土)より岩波ホールにて公開されることが決定しました。

タイトルにある「湾生」とは、戦前の台湾で生まれ育った約20万人の日本人を指す言葉です。下関条約の締結された1895年から1945年までの50年間、台湾は日本に統治されていました。当時、日本から公務員や企業の駐在員が台湾へと海を渡り、農業従事者も移民としてその地を踏みました。そして、彼らのほとんどが敗戦後、中華民国政府の方針によって日本本土に強制送還されました。引揚者が持ち出しを許されたのは、一人あたり現金1,000円(当時)とわずかな食糧、リュックサック2つ分の必需品だけでした。

敗戦によって台湾から日本本土へ強制送還された日本人は、軍人・軍属を含め50万人近かったと言われています。彼らの多くにとって、台湾は仮の住まいの土地ではなく、一生涯を送るはずの土地でした。しかし残ることはできず、その願いはかないませんでした。そこで生まれ育った約20万人の「湾生」と言われる日本人にとって、台湾は紛れもなく大切な「故郷」でした。しかし、彼らは敗戦という歴史の転換によって故郷から引き裂かれ、未知の祖国・日本へ戻されたのです。

『湾生回家』は、そんな「湾生」たちの望郷の念をすくい取った台湾のドキュメンタリー映画です。異境の地となってしまった故郷への里帰りの記録です。ホァン・ミンチェン監督をはじめ製作スタッフは、戦後70年という長い年月を経るなかで、かつて20万人と言われた「湾生」が高齢化して、「湾生」が忘れ去られようとしている現在、台湾の人々の心とまなざしで、彼らの人生を、引揚者の想いを記録しました。

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執筆者

Yasuhiro Togawa