想いは、言葉にしなければ伝わらない ——。
ヘアサロンを経営する夫婦のさくらと真。近く結婚式を挙げるにあたり、さくらの父・辰夫を式に呼ぶか呼ばないかで言い争いになる。父子家庭で育ったさくらの胸中には、幼い頃、母を亡くした時の出来事が大きく残っているのだった。そんな時、父の辰夫も娘を想い、亡き妻が残した家庭菜園の前で決意する。それは久しく会ってない娘に直接会いに行くことだった。疎遠だった親子の行方は——。本作は、結婚式を控える娘と、関係を避けていたその父との葛藤、絆、そして家族の愛を描いたヒューマンドラマだ。

主演は、小西真奈美。つかこうへい演出の舞台「寝盗られ宗介」でデビュー後、02 年に映画『阿弥陀堂だより』にてブルーリボン新人賞、日本アカデミー賞新人賞など多数受賞し、演技力に定評のある存在となる。本作では、子供の頃の出来事により父との間に軋轢があり、悩み、葛藤するさくらを好演。また、さくらとともにヘアサロンを経営する誠実で優しい夫・真には、吉沢悠。
そして、さくらの父・辰夫には、名優・石橋蓮司。一見近寄りがたく、娘の幸せを願っているのに言葉に出来ずにいる不器用で口下手な父を演じている。ほか、原日出子はじめ、角替和枝、柄本時生が親子出演を果たしている。

メガホンを撮ったのは、『捨てがたき人々』(第 26 回東京国際映画祭コンペティション部門正式出品、第 9 回 KINOTAYO 映画祭批評家賞受賞)『木屋町DARUMA』など、様々な視点で人間ドラマを描き続けている榊英雄監督。最近ではテレビドラマ「まかない荘」(名古屋テレビ)、また現在放映中「侠飯〜おとこめし〜」(テレビ東京)の監督も務める。オリジナル作品の本作では、脚本も手掛けている。
お蔵出し映画祭 2015 グランプリ、観客賞 W 受賞作品。
父と娘、夫婦、そして家族。それはいつの時代にも大切な存在。

父と娘、夫婦、家族について描かれる本作は、みえない絆の強さを感じさせてくれる。食事の際、食卓の料理にむかって「幸せになぁれ」とおまじないを唱えることが日課の主人公。子供の頃からの習慣のこのおまじないは、主人公と軋轢のある父に対し、切っても切れない縁があることを思わせる。年々、家族のあり方が変化している世の中だが、どんな形であろうとも大切な存在であることに変わりがない。本作には、各世代が共感できる娘の視点、父の視点、夫の視点といろんな形が詰まっている。これから、家族をつくる人へ。これからも、家族に寄り添いたい人へ。そんな方々に届けたい映画だ。

この劇場公開を待ち望んだキャスト、そして企画から立ち上げた監督より、コメントが届きました。

【小西真奈美さん】=椿山さくら 役
主人公のさくらは、しっかり者な面、少女のようなまっすぐな面、頑固な一面、、、色んな喜怒哀楽を愛らしく持ってる女性のような気がしたので、くるくる変わる表情や、静かな中に持ってる熱い想いを丁寧に出せたら。と思いながら演じました。
『親子』という近い関係性だからこそ遠くなってしまう心の距離を放っておくのではなくて、やっぱり一番近い人たちを大切にして生きていきたい。と思わせてくれる作品になっていると思います。

【吉沢悠さん】=椿山真 役
家族、特に父と娘のお互いで抱えている気持ちが切なくて、誰にでも起こり得るストーリーが共感できました。役柄として、自分の妻とそのお父さんを橋渡しするような立ち位置にいますが、僕は妻の味方として、彼女の人としての大切なものを諦めて欲しくない。という真の想いを表現できたらな、と演じていました。
身近な存在だからこそ、素直になれなかったりすることがある不思議な存在なのが家族。だからこそ、自分自身とも向き合わざるを得ませんし、最後には愛があるからの行動と気づかせてくれるのも家族なのかなと思います。
そのようなことが「トマトのしずく」には描かれています。

【石橋蓮司さん】=春辰夫 役
榊さんは役者仲間として知っておりましたが、7 年も前のこと、突然「映画の監督をやるので出演してもらえないか」と依頼があり、榊さんの新たな挑戦なので、引き受けさせてもらいました。役柄も、娘と男親との葛藤を描く作品で、自分にも同じ年頃の娘がおりますので、父娘の、互いに愛情を持ちながらも微妙な距離感が演じられればと思っておりました。

【榊英雄監督】=監督・脚本/製作・企画
映画『トマトのしずく』は、私にとって我が子の様に愛おしい作品です。完成まで時間をかけ、手作りで創った映画です。家族という普遍的な題材を自分なりに描きました。また、『トマトのしずく』の撮影前年に父が亡くなり、私なりに父へのメッセージも込めて撮影しました。製作会社ファミリーツリーを設立し、そして初めて製作企画、脚本も担当し、妻・榊いずみが、劇伴と主題歌を担当、文字通り、榊家で創った家族の映画です。小さな小さな世界の小さな愛のお話です。

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執筆者

Yasuhiro Togawa