この度、『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(原題:「The Lovers and the Despot」)が、9月より渋谷ユーロスペースほかにて、全国順次公開されます。

 本作は、1978年、韓国人女優チェ・ウニ(雀銀姫)と、著名な映画監督であるシン・サンオク(申相玉)が北朝鮮に拉致された事件を追ったドキュメンタリー。拉致被害者であるチェ・ウニ本人の証言や、その家族、当時事件を調査した香港の捜査官や米国務省関係者、元CIA職員らのインタビューを通して、1978年の拉致から86年に亡命するまでの、8年間に及ぶ北朝鮮での生活が解き明かされます。

 金正日(キム・ジョンイル)は自らの肉声をほとんど露出させないことで有名ですが、作中では、2人が密かに録音していた金正日の肉声テープが初公開され、“北朝鮮から国際映画祭に出せるような映画を出したい”“私が2人を我々の方へ渡ってくるようにせよと指示した”と、拉致を指示するその内容は、映画祭で大きな反響を呼びました。 そう、映画マニアであり、およそ2万本ものビデオテープを所有し、『ゴジラ』や『男はつらいよ』のファンであったと言われる金正日は、映画を撮らせるために2人を拉致したのです。拉致後、シン・サンオクは、“申フィルム”映画撮影所総長に任命され、北朝鮮で17本もの映画を製作。子供たちと引き離され、悲しみに暮れるチェ・ウニとは対照的に、監督は何度も逃亡を謀りながらも、国家から与えられる潤沢な資金と、自由に撮影できる環境の下、やがて映画製作に熱中してゆきます。また、“将軍様”として神格化されてきた金正日にとってもシン・サンオクは、唯一対等に大好きな映画について語り合うことができる貴重な存在だったことでしょう。

 映画を愛した独裁者と、映画に取り憑かれた映画監督、そしてそんな2人に運命を翻弄される1人の女性——。亡命から30年の時を経た今、ベールに包まれた国家の内幕が明かされます。

 この度、本作のポスターヴィジュアルが完成いたしました。シンプルな中にもインパクトのあるビジュアルには、拉致から5年後、北朝鮮国内で初めてシン・サンオクとチェ・ウニが対面を許された際に撮影された、金正日との貴重な3ショットが使われています。この写真は、2人が、亡命した時に拉致の証拠になるようにと隠し持っていたものであり、金正日が拉致被害者と肩を並べて写っている写真は大変貴重です。

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執筆者

Yasuhiro Togawa