第二次大戦末期の昭和19年に書かれた映画脚本『あのひと』が、2012年に大阪の中之島図書館で発見され、文豪・織田作之助が書いたものと専門家が認定したと報道されました(2012年10月13日付「産経新聞」ほか)。松竹大船撮影所で製作予定だったものが、おそらく軍部の忌避にあい、実現しなかった幻の作品です。
ストーリーは、4人の帰還軍人が戦死した部隊長の遺児「小隊長」を育てているところから始まります。やがて、戦局が厳しくなり軍需工場に働きに出た帰還軍人たちの代わりに、今度は4人の女たちが住み込んで遺児を育て始める。「小隊長」を中心とした戦時下の奇妙な共同生活を、時にユーモラスに描く意欲作です。

そんな幻の作品『あのひと』が、このたび、70年の時を超えて映画化!
監督は、『武士の一分』(山田洋次監督)、『珈琲時光』(侯孝賢監督)など数々の傑作のプロデューサーを務めてきた山本一郎。本作が長編監督デビューとなります。織田作之助の脚本をほぼ一字一句変えず、独自の解釈であえてモノクロ/スタンダード・サイズを採用し映像美を追究。キャメラマンの佐々木原保志(『その男、凶暴につき』『ゲゲゲの鬼太郎』他)を筆頭に、稀有な企画である本作ならではのスタッフが結集し、山本一郎監督の世界観を映像化しました。

出演は、田畑智子、神戸浩、『太秦ライムライト』を製作した大野裕之率いる劇団とっても便利のメンバーに、福本清三、峰蘭太郎ら。撮影は、2013年夏に、京都の松竹撮影所で行われました。

このユニークな作品『あのひと』は、ベラルーシ共和国で2015年11月6日から13日まで開催された、東ヨーロッパ・中央アジア最大の映画祭である第22回ミンスク国際映画祭にて、異例の2つの特別賞を受賞!
「映画を信じることの奇蹟、人生を信じることの奇蹟への特別賞」
「日本映画の伝統へのこだわりに対しての特別賞」
 を受賞しました。

初監督作品が、国際映画祭で二つの特別賞という異例づくめの快挙です!

【山本一郎監督・受賞の言葉】
「とても光栄です。京都の松竹撮影所で撮影できた事が良かったです。20年以上前のことですが、そこにあった、KYOTO映画塾に感謝しています。「あのひと」に参加して下さった皆さま、ありがとうございました。」

5月14日(土) なんばパークスシネマ(大阪)
5月28日(土) ユーロスペース(東京)/名演小劇場(名古屋)
近日公開     京都みなみ会館(京都)

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執筆者

Yasuhiro Togawa