黒澤明、小津安二郎と並ぶ日本映画界の巨匠・溝口健二監督。没後60年のメモリアルイヤーに、日本映画という枠組みを超え、今なお世界の映像作家に影響を与え続ける代表作『雨月物語』(1953)が、溝口監督を敬愛するマーティン・スコセッシ監督主導により4Kデジタル復元!本年度第69回カンヌ国際映画祭のカンヌ クラシック部門でワールドプレミア上映されることが決定致しました!
昨年の『残菊物語』(1939)デジタル修復版に続き、2年連続で溝口監督作品がカンヌ国際映画祭のカンヌ クラシック部門で上映されることになります。

 『西鶴一代女』『雨月物語』『山椒大夫』の3作品にて3年連続ヴェネチア映画祭国際賞を受賞し、海外、とりわけヨーロッパではクロサワ(黒澤明)、オズ(小津安二郎)を凌いで絶大なる人気を誇るケンジ・ミゾグチ(溝口健二)。溝口の代表作のひとつである『雨月物語』は、2005年に米タイム誌が選ぶ「ベスト映画100本」に選出されるなどその評価はとどまることを知りません。

 一方、6度目のノミネート『ディパーテッド』により第79回アカデミー賞監督賞・作品賞を受賞したマーティン・スコセッシ監督。これまでにもルキノ・ヴィスコンティ監督の『山猫』などの復元に携わり、映画保存にも並々ならぬ情熱を注ぐスコセッシが、米クライテリオンが主催する「クライテリオンコレクション ベスト10」で、2014年度のベスト10第4位に選出したのが本作品『雨月物語』です。選出理由についてスコセッシは、「ミゾグチの芸術性は、極限のシンプルさにあります。好きなシーンを3つ挙げると、霧の中からゆっくりと小舟が現れるシーン、魅力的な若狭に迫られた源十郎が草原で倒れこむシーン、息子が母親の墓前に食べ物をお供えするラストシーン、これらのシーンは何度観てもはっとさせられ、ミゾグチへの畏敬と驚異の念を抱かせます。」

 この度、『雨月物語』の復元にあたって、日本が世界に誇る撮影監督として知られ、本作品でも撮影を務めた宮川一夫キャメラマンの助手を長きにわたり務めた宮島正弘撮影監督に協力を要請。宮島正弘撮影監督監修の下、KADOKAWAに保存されていたマスターポジをニューヨークにある老舗のラボ「シネリック」において4K高解像度でスキャンし、デジタル技術を駆使して傷や汚れなどの修復を行い、最終的には長期保存に最も適しているといわれているネガフィルムを作成しました。

執筆者

Yasuhiro Togawa