スマホやネットが全盛の現代に———〈日記〉!? 

日記を読んで会ったことのない彼女に恋をした。

タイ映画史に残る名作『フェーンチャン ぼくの恋人』のニティワット・タラトーンが監督した本作は、タイ・アカデミー賞最多ノミネートや米アカデミー賞外国語映画賞タイ代表などNo.1の高い作品評価に加え、首都バンコクのみで約100万人を動員し興行的にも成功を収めた話題作。

映画は、スポーツしか取り柄のない青年ソーンが、ようやく見つけた仕事は、誰もが行きたがらない山奥の湖に浮かぶ水上学校の先生だった———というところから始まる。そこは電気なし・水道なし・携帯電話もつながらない場所。生徒の子供たちとも打ち解けられず、孤独なソーンは、ある日、誰かの日記を見つける。それは前任の女性教師エーンの日記。ソーンは日記を読むうち、そこに書かれた悩みに共感したり、教え方を学んだり。やがて会ったことのないエーンに恋をしてしまう・・・、という物語だ。

この度完成した予告編では、赴任した当初は「3=20」というトンチンカンな解答を子供に教えてしまったり、子供たちと打ち解けられないダメな先生だった青年が、少しずつ教師として成長していこうとする姿を見ることができる。

中でも、印象的なのは、「日記」の存在。携帯も通じない孤独な場所で、前任者の置き忘れた日記を、唯一の心の拠り所に、やがてその書き手である女性への思いを募らせていく青年。日記から浮かび上がるのは、子供たちとの毎日に全力投球していた女性教師の姿。スマホやネットが全盛の現代だからこそ、手書きの日記を通して、会ったことのない彼女に恋をする主人公の気持ちに、誰もが感動してしまう。ネット普及によって引き起こされる様々な人間関係トラブルとは無縁な2人の爽やかな関係に、日本の観客も癒されるに違いない。

本作は決して、単なるおとぎ話ではない。実在する水上学校の話と日記を読んで恋をした男性の話、2つの実話を元に作り上げられた誰にでも起こりうる運命の出会いの物語。果たして、2人は会えるのか?世界中で上映されるたびに観客から熱い声援が寄せられた感動作、ぜひ公開を楽しみにして欲しい。

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執筆者

Yasuhiro Togawa