この度、第71回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品・ヤング審査員特別賞受賞作品、ドイツの若き巨匠、ファティ・アキン監督最新作、『消えた声が、その名を呼ぶ』が12月26日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開となります。監督は、世界三大映画祭を制覇した、若き巨匠ファティ・アキン。『そして、私たちは愛に帰る』『ソウル・キッチン』に続く本作では、100万人が犠牲になり、ヒトラーがホロコーストの手本にしたと言われる悲しい史実(アルメニア人虐殺)を背景に、一人の男が深い絶望を乗り越える壮大な旅路を描きます。製作に7年をかけた、ドイツ、キューバ、カナダ、ヨルダン、マルタと5カ国に渡るロケーションも見どころ。

本作は、歴史を背景とした作品でありながら、ファティ・アキン監督が「映画への愛を全て注いだ」と話す通り、映画愛に満ちた作品です。中でも、家族と生き別れ失意のどん底にある主人公が生きる希望を取り戻すシーンに登場するのは、チャールズ・チャップリンの世界中を笑いと涙で包んだ親子愛の傑作『キッド』。チャップリンの無声映画は、声を失った主人公の姿と重なり、また『キッド』が描く親子愛は生きる希望を失った主人公を、生き別れた娘を探すために奮起させます。

チャップリンが亡くなったのは1977年12月25日。死後38年が経つ今年も、チャップリンが亡くなった後の実話をもとにした『チャップリンからの贈りもの』が7月に公開され、そのほかにも数えきれないほどの作品に影響を与えるチャップリンの魅力を本作品のファティ・アキン監督と主演のタハール・ラヒムが語っています。

★『消えた声が、その名を呼ぶ』に登場するチャップリンの傑作『キッド』。「チャップリンの作品は物語を追うことしかできないほどパワフル」(ファティ・アキン監督)「チャップリンこそが映画」(タハール・ラヒム)
『消えた声が、その名を呼ぶ』の舞台は20世紀初頭。失意のどん底にある主人公が再び生きる希望を取り戻すシーンで登場するのはチャーリー・チャップリンの『キッド』だ。戦争が終わり、夜の帳が降りた広場で上映されているという設定だが、そのシーンに登場する人々の顔には子どもも大人も関係なく笑顔が浮かんでおり、幸福感にあふれたシーンだ。チャップリン演じる浮浪者とひょんなことで出会った赤ん坊が貧しいながらも懸命に生き、やがて二人の間に芽生える絆を笑いと涙を織り込んで描いた『キッド』。この作品を劇中劇として採用した理由について、ファティ・アキン監督は「この作品のリサーチのために作品の舞台となる時代の映画をたくさん観ました。その中の一つがチャーリー・チャップリンの『キッド』だったんです。チャップリンの作品は映画が綴っている物語以外を追うことができないほどパワフルで求心力を持っています。改めて観て、私自身がそれを再発見して感動したんです。それで採用しました。ぴったりでしたね」と今なお色褪せないチャップリン作品の魅力を絶賛している。また、主演のタハール・ラヒムは「彼は素晴らしいよ。『ライムライト』が僕はお気に入りで、音楽があって、世界観があって、物語がある。彼は映画の中ですべてをやっているし、彼こそが映画だよ。唯一無二だね。」と語っている。

★『グッバイ、レーニン!』から『ウォーリー』も!今なお影響を与え続けるチャップリンの魅力
ファティ・アキンに限らず、「喜劇王」として今なお愛されるチャップリン。実際に本人に会ったことのある萩本欽一をはじめ、北野武や三谷幸喜、志村けん、太田光など日本のコメディ界の第一人者たちがチャップリンのファンを公言している。またウッチャンナンチャンの内村光良もファンであることを公言している一人。かつてのコント番組「笑う犬の生活」(フジテレビ)の番組名はチャップリンの「犬の生活」からインスパイアされており、現在総合大会委員長を務めるお笑いネタ番組はその名も「こそこそチャップリン」(テレビ東京)!また、学生時代に『モダン・タイムス』を観てファンになったという周防正行監督はフランスの巨匠振付家ローラン・プティがチャップリンの名作をバレエにする過程を追ったドキュメンタリー『ダンシング・チャップリン』を制作している。
海外では、ジャッキー・チェンは敬愛するチャップリンの出身地であるイギリスを舞台にした監督・主演作「シャンハイ・ナイト」でチャップリンのトレードマークともいえる山高帽をかぶった少年を登場させています(ちなみに、少年を演じたのは『キック・アス』などのアーロン・テイラー=ジョンソン!)。その他にも、『グッバイ、レーニン!』のラストの演説シーンは『独裁者』へのオマージュと言われており、最近公開された映画ではアカデミー賞の外国語映画賞のインド代表になった『バルフィ!人生に唄えば』にも、『街の灯』などへのオマージュがあり、作中にはチャップリンが映ったポスターも登場。また、アカデミー賞作品賞を受賞した『アーティスト』の主人公、ジョージのテーマ曲もチャップリン作品へのオマージュが観られます。その他にも、ギレルモ・デル・トロ監督やエドワード・ノートンなどがファンであることを公言しており、影響を受けた作品は数えきれないほどだ。
「喜劇王」としてまさに世界中に愛されているチャップリンの作品。サイレント映画の時代から、トーキーへの時代を生きたチャップリンは、独学ながら製作から監督・脚本・主演そして音楽までを担い、優れたプロデューサーでもあり、映画を芸術まで高めた第一人者とも言われている。また、「喜劇王」と言われながら、その作品はただ人を笑わせるだけではなく、ユーモアの中にペーソスがあり、ギャグの中にときに批判的な社会的なメッセージが込められていた。それと同時に、愛することと生きることへの教訓も詰まっている。死後38年を経てもなお、愛されるチャップリン。命日をきっかけに、『消えた声が、その名を呼ぶ』に登場する『キッド』をはじめ、気になる作品をチェックしてはいかがだろうか。

■チャップリンのファンを公言している著名人■
北野武、萩本欽一、太田光(爆笑問題)、内村光良(ウッチャンナンチャン)、エドワート・ノートン、手塚治虫、ギレルモ・デル・トロ、三谷幸喜、和田誠、石丸幹二、黒柳徹子、周防正行監督

■チャップリン作品へのオマージュがみられる主な作品■
・『グッバイ、レーニン!』(2004)≒『独裁者』
→ラストの演説シーン
・『街のあかり』(2007)≒『街の灯り』
→アキ・カウリスマキ監督自ら『街の灯り』へのオマージュだと語っている。
・『ウォーリー』 (2008) ≒『モダン・タイムス』
→ダンスシーンが『モダン・タイムス』のオマージュ
・『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(2009)≒『モダン・タイムス』
→クライマックスの歯車上での戦闘シーン
・『バルフィ!人生に唄えば』(2014)≒『街の灯』
※アカデミー賞外国語映画部門インド代表作品。
※作中にはチャップリンが映ったポスターも登場
・『チャップリンからの贈り物』(2015)≒『ライムライト』
→主人公の楽屋のシーンのほかたくさん
※チャップリンの遺体が盗まれたという実話をもとにした作品。
・『シャンハイ・ナイト』(2003)
→劇中にチャーリー・チャップリンという名前の山高帽をかぶった少年が登場。
・『アーティスト』(2012)
→主役のジョージのテーマ曲がチャップリン作品へのオマージュ

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=54196

執筆者

Yasuhiro Togawa