この度、第71回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品・ヤング審査員特別賞受賞作品、ドイツの若き巨匠、ファティ・アキン監督最新作、『消えた声が、その名を呼ぶ』が12月26日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開となります。本作は、犠牲者100万人とも150万人とも言われる、ヒトラーがホロコーストの手本にしたとの話もある悲しい史実(アルメニア人虐殺)を背景に、声を失った一人の男がはなればなれになった娘を求め壮大な地球半周の旅をする映画です。本作の音楽を担当したのは、日本のミュージシャンにもファンの多いドイツのインダストリアル/ノイズ・ミュージック代表的前衛バンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの(Einstuürzende Neubauten)のギターリスト/ベーシストであるアレクサンダー・ハッケ。ファティ・アキンの過去作『愛より強く』『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』でも音楽を担当し、その世界観に彩りを与えてきました。今回ハッケが手掛けた『消えた声が、その名を呼ぶ』の劇中音楽は、海外メディアからは「不協和音だ!」とまで言われ、賛否両論を巻き起こしました。しかしそれにはある理由が…。今回は現代ドイツ映画界を代表し、映画音楽も評価の高いファティ・アキン監督が絶大なる信頼を寄せるアレクサンダー・ハッケと、彼が手がけた『消えた声が、その名を呼ぶ』の音楽に迫ります。

★日本人ミュージシャンにもファンの多いアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンとは?
東西分断が続いていたドイツの西ベルリンで1980年に活動を始めた彼らは、翌年にアルバム『コラプス』でデビュー。金属片やチェーンソーなども楽器として使用する自作のメタル・パーカッションによる刺激的な機械音と激しいノイズが入り交じったこれまでにない実験的サウンドでロック・シーンを震撼させた。日本でも、電気グルーヴ石野卓球やナイン・インチ・ネイルズ、そしてカジヒデキなど、ジャンルの垣根を越えたミュージシャンたちが、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの斬新な楽曲に多大な影響を受けたと公言している。
メンバーであるアレクサンダー・ハッケは、これまで30年以上同バンドの中心人物として活躍。エレクトリックギターやエレクトリックベースをはじめ、あらゆる楽器を演奏することができ、ヴォーカリストとしての一面もある。音楽プロデューサーとしても世界的に活躍し、1992年以降は映画音楽にも進出している。

★ファティ・アキン監督の音楽ドキュメンタリー『クロッシング・ザ・ブリッジ 〜サウンド・オブ・イスタンブール〜』では主演を務めたことも!音楽がつなぐ二人の絆
自らDJもこなすほど音楽を愛し、『ソウル・キッチン』(11)をはじめとする映画の音楽も高い評価を受けているファティ・アキン監督。アレクサンダー・ハッケがアキン監督の作品で音楽を初めて担当したのは『愛より強く』(06)。その音楽制作時に出会ったイスタンブールでの音楽シーンに衝撃を受け、同監督の音楽ドキュメンタリー『クロッシング・ザ・ブリッジ 〜サウンド・オブ・イスタンブール〜』(07)では主演を務めた。イタンブールの音楽シーンの秘密を求めてトルコへと旅に出るハッケの姿を追った同作はトルコ版『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』とも称され、今なお根強いファンがいる作品だその後も、アキン監督の祖父母が住んでいたトルコの村についてのドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』でも映画音楽を担当するなど、長年に渡りアキン監督と度々タッグを組み、深い信頼関係を築いている。

★賛否両論?しかし、それもファティ・アキン監督の意図するところ!
 発注したのは、ヘヴィメタ西部劇!!予想外だから面白い、ハッケの映画音楽。
ファティ・アキン監督の最新作『消えた声が、その名を呼ぶ』は、100年前のオスマン・トルコで起きた悲劇的な史実を背景に、一人の男が世界を放浪する物語だ。この映画の音楽について、海外メディアは賛否両論に分かれ、中には「不協和音だ!」という書きたてるメディアも。確かに、砂漠の中を苦悩に満ちた表情で彷徨う主人公の姿と共にエレキギターの重厚な音色が鳴り響く場面は観客に鮮烈な印象を残す。
今回の音楽について、ファティ・アキン監督は「元々、映像はクリント・イーストウッドやデヴィッド・リーン、セルジオ・レオーネなどの古典的でクラシカル、西部劇のようなアプローチをしているんだ、だけど一方で、映像のクラシカルな雰囲気を壊し、作品にインパクトを与える方法は何かと考えていて、音楽だとひらめいたんだ!登場人物の心情には合っているけれど、普通は使わないような予想外の楽曲が欲しくて、西部劇だけれど、これはへヴィメタ西部劇なんだ!とハッケに伝えたよ。」とその意図を明かしてくれた。さらに、アキン監督とハッケは、リサーチの段階で映画の舞台となるアルメニアに古くから伝わるララバイを発見し、映画の物語にも通じるその円環を回るようなメロディーをハッケがヘヴィメタ調にアレンジした曲も印象的だ。監督の狙い通り、元々ヘヴィメタ出身のハッケによる音楽はクラシカルな映像と共に強烈なインパクトを残している。もし、本作の音楽がハッケでなかったら、目新しさのない普通の作品になってしまっただろう。ヘヴィメタ出身のアレクサンダー・ハッケが、親友ファティ・アキン監督のために、いよいよ本領を発揮している。

『消えた声が、その名を呼ぶ』でファティ・アキン監督と世界中のミュージシャンたちを虜にするアレクサンダー・ハッケの織りなす音楽にぜひ身を浸してみよう。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=54196

執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa