現役最高齢監督として国際的に知られ、2015 年 4 月 2 日に、惜しまれつつも 106 歳で永眠した世界の巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。そのオリヴェイラ監督が 101 歳の時に撮り上げ、第 63 回カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門のオープニングを飾った『アンジェリカの微笑み』が、紆余曲折を経て、ついに日本公開される。本作はもともと、オリヴェイラ監督が 1952 年に脚本を執筆したものだが、その後映画化されないままになっていた。当初は、第二次世界大戦におけるホロコーストの記憶が生々しく残され、ナチス・ドイツの迫害を逃れてポルトガルに移り住んだユダヤ青年である主人公のアイデンティティが強調されていた。それを半世紀以上の歳月をかけて熟成させ、混沌とする世界情勢を背景に監督自らが書き直して、現代の物語として完成させた、まさに、芳醇な極上ヴィンテージワインのような傑作である。

ポルトガルはドウロ河流域の小さな町。カメラが趣味の青年イザクは、ある夜、若くして亡くなった娘アンジェリカの写真撮影を依頼され、町でも有数の富豪の邸宅を訪れる。
白い死に装束に身を包み、花束を手に抱えて横たわる、かの娘にカメラを向けると、その美しい娘は、突然瞼を開きイザクに微笑みかける。その瞬間、イザクは雷に打たれたように恋に落ち、すっかりアンジェリカの虜になってしまうのだった。
絶世の美女アンジェリカの神秘に満ちた美しすぎる微笑みに心奪われ、日頃の愁いも忘れて、昼も夜もアンジェリカに想いを馳せるイザク。その想いに応えるように出没するアンジェリカの幻影。

12月5日(土)よりBunkamuraル・シネマ他にて全国順次ロードショー

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執筆者

Yasuhiro Togawa