1976年、シルベスター・スタローンが脚本を書き、自ら主演、監督した『ロッキー』は、全世界の観客を感動で包み込み、米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した。以来、『ロッキー』は続編5本が製作されるまでに成長し、大きな影響力とともに批評家と観客の両方から圧倒的支持を受け、スタローンとロッキーの名前は文化的シンボルの象徴となった。だが、2006年、最終章となる『ロッキー・ザ・ファイナル』で、スタローン自らがシリーズに終止符を打つことになった。だが、ある日、スタローンの元に「アポロに息子がいたとしたら…」というアイデアを持った若きクリエイター、ライアン・クーグラーが訪れた。今回、撮影現場でライアン・クーグラー監督にアドバイスするシルベスター・スタローンのメイキング写真が解禁となった。時に激しく、時に穏やかに監督と話すスタローンの姿は、トレーナーとなったローキーの姿にも重なり、もうひとつの師弟関係を感じさせる。そして、新章(シリーズ)誕生秘話を紹介しよう。

ライアン・クーグラー監督から構想を聞いたシルベスター・スタローンは、思わず舌を巻いたという。自分が創ったロッキーという特別な存在について、「ロッキーが人々に残した印象に大きさには、私は当惑すると同時に圧倒されている。だからこそ、私はこのキャラクターを損なってはいけないという計り知れない責任をつねに感じてきたんだ。ライアンが、アポロ・クリードの息子アドニスというキャラクターの構想をもって訪ねてきたとき、私は、これはすごい、このフィルムメーカーはこんなに若いのに、私たちが何十年も前に始めた作品にこれほどまで魅了されているなんて、と思った。認めるけど、私はすごく興味をそそられたよ」と驚きを隠さない。スタローンは1946年生まれ、1986年生まれのライアンとの年齢差は実に40年、孫世代といっても良いのだ。 『クリード チャンプを継ぐ男』のアイデアは、実話に基づく映画『フルートベール駅で』(13)が高く評価されたライアンが監督デビューする前の大学時代に生まれた。「僕は父親と『ロッキー』映画を観て育った。僕らの定番の父子タイムだったんだ。ロッキーは誰もが共感できるキャラクターだ。それは『ロッキー』映画にはどんな人でも楽しめる要素があるからなんだ」とライアンは言う。
“ロッキーの体験”は、父とともに過ごした少年時代に遡る。「僕らは一緒に『ロッキー2』を観たものだよ。あの映画が僕がロッキーというキャラクターとストーリーを知ったきっかけだ。父と僕は最終的にはシリーズ全作を一緒に観て、僕は父を通してあのストーリーに夢中になったんだ」と、ロッキー・ファンとしての少年時代を振り返る。ライアンこそ、『ロッキー』に登場する人物たちが映画の中に生きた軌跡を熟知している人物なのだ。映画化するために、シルベスター・スタローンからの承諾と、彼が再びグローブを手にする〜ロッキーを再び演じる〜という言質を取りつけなければならなかった。スタローンと始めて会った日のことを、「彼がちょっと不安げなのが見てとれた。なにしろ僕は、その当時はまだ1本も長編映画を作っていなかった。たぶん彼は、『この俺に「ロッキー」映画を撮りたいと言ってくるなんて、この若造は何者だ?』と思っていたんじゃないかな。でも同時に、彼がどうすれば映画として成立させられるか、あらゆる可能性を考えているのも感じた」と微笑む。そして、スタローンと若きライアンの脚本化に向けての共同作業が始まった。「なにしろ、スライ(スタローンの愛称)ほどロッキーを熟知している人はいないからね。ボクシングについても、スポーツとして、そして映画でどう描くかということについて、彼は誰よりも詳しい。僕らは脚本を書きながら、『このシーンだとロッキーは何をするのかな?』と彼に電話して相談したよ。僕が何か思いついたら、最初に電話したのが彼だったし、彼のほうでも僕に真っ先に連絡してくれた。彼はほんとうに寛大だったし、すばらしい共同作業だった」とのこと。

こうして生まれたのが、親友であるアポロの息子アドニスを世界チャンピオンにすると決意したロッキーが、再びリングに向かう『クリード チャンプを継ぐ男』だ。トレーナーとしてセコンドにつくロッキーを演じたスタローンは、「ボクシングは、80パーセントは頭の中で決まる。ロッカールームを出る前に負けが決まってしまうこともありうる。だからこそ、いいセコンドというのは、その場で即断できる精神分析の力が必要だ。セコンドはボクサーの精神状態を安定させなければならない。セコンドというのは、そんなすごい役割を担っているんだよ。だから、ロッキーが進むべき道としてはすごくいいと思ったんだ。ボクサーとしての長年の経験を、アポロの息子に生かすことができるんだからね」と、熱く語っている。
『クリード チャンプを継ぐ男』は、12月23日(祝・水)より日本公開となる。

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執筆者

Yasuhiro Togawa