旧工業地域に暮らす主人公の青年ルカ。仮釈放中で仕事も目標もなく、鬱屈した日々を送っていた。そんなある日、自宅を訪問した社会福祉士によってコソボ紛争で失踪したと思われていた父が生きていることを知る。そんな中、首都ベオグラードでコソボ独立反対のデモに参加したルカは、帰り道に父と再会することになり—。
 やり場のない思いや不安を抱えながら、自分の居場所やアイデンティティを模索する若者の姿と、その社会背景を誇張せずに端的に描いた本作は、英国の巨匠ケン・ローチ監督が労働者階級や移民たちの日常にクローズアップして描いた『ケス』や『SWEET SIXTEEN』などの作品にも通じる一本であると言えるだろう。

33歳のセルビア人監督が描く、故郷の混乱と闇。
 本作が長編映画デビュー作となるイヴァン・イキッチ監督は弱冠33歳。セルビアの首都ベオグラードに生まれ、コソボ紛争中に多感な時期を過ごした監督は、「自分たちのような“忘れられた世代”の憤りを描きたい」と脚本をしたためた。 
その動機となったのが、2008年3月17日に首都ベオグラードで起きた【コソボ独立反対運動】である。あの晩、各地方から多くの若者たちが集まり、火炎瓶の欠片や焼かれた米国旗(コソボ独立を認めたため)が道路に散乱していたという…。まさにこれまでの無政府状態への怒りが爆発した夜の出来事だった。そしてこの反対運動は監督の記憶の中に深く焼き付けられた結果となった。時が経ち、監督は大人になっても忘れられないこの記憶に向き合い、混乱の末に荒廃した故郷のリアリズムを描き出したのである。
地元の不良たちを起用し、鼓動が聞こえるかのようなリアリティを追究。
 若者をよりリアルに描くため、役者ではなく素人を起用することを決意した監督たちは、6ヶ月間にわたり20以上の高校でオーディションを行ったが、適任のキャストが見つからずキャスティングは難航していた。そんな矢先、偶然、本作の舞台となった街(ムラデノバツ)にある学校で、ある落ちこぼれグループと出会った。それこそが、ルカやフラッシュを演じた若者たちだ! 監督は一目で彼らしかいないと確信し出演交渉を行った。
 イメージ通りのキャストを発掘できたものの、本物の不良たちを使った撮影には、思いもよらないトラブルが多発…。ネナド(フラッシュ役)は撮影初日の前夜にヘルメットなしでスクーターに乗り、顔に怪我をおってしまい、彼が回復するまで約一ヶ月撮影が延期することになった。また拘置所から休みをもらい撮影に参加した不良は、撮影中に問題を起こしてしまい拘置所に引き戻されてしまうなど、撮影中はこうした予想不可能なアクシデントに見舞われながらも完成までこぎつけた。

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執筆者

Yasuhiro Togawa