ジェイク・ギレンホールの恐るべき怪演に絶賛の悲鳴!まだハリウッドが取り上げたことのないテーマを、センセーショナルかつリアルに描き、本年度の賞レースを席巻、本年度アカデミー賞®【脚本賞】ノミネートも果たした震撼の衝撃作『ナイトクローラー』がヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかで全国大ヒット公開中です。

主演は、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞®にノミネートされたジェイク・ギレンホール。我々の隣にもいるごく普通の男に潜む底なしの狂気に満ちた怪演、アカデミー賞®ノミネート、米国レビューサイトRotten Tomatoesで驚異の満足度95%といった本国での評価から日本でも本作への注目度は早くから高く、公開された22日以降、ネットでは本作が持つ多くの側面について熱く語る人が続出。本作についてのまとめサイトも立ち上げ数日で8万PVに迫る勢いだ。

ギレンホール演じるルイスが出会う“ナイトクローラー”とは、いち早く事件・事故現場に駆け付けて被害者にカメラを向け、それをテレビ局に売りさばく報道スクープ専門の映像パパラッチ。警察無線を傍受しスキャンダラスな“画”を求めて夜な夜なL.A.の街に繰り出すハイエナのような存在だが、これはL.A.に実際にある職業だ。『ボーン・レガシー』や『落下の王国』など話題作の脚本を手がけ本作で監督デビューを飾ったダン・ギルロイは、ストーリーのインスピレーションを得たのはこの職業の存在を知った時で、「脚本を手がけた作品で自分が書いたものとは違う解釈で撮られることもあったから、これはほかの人には監督を譲れないと思った」とこのテーマに強いこだわりを持っていたことを明かす。この名脚本家を突き動かした“ナイトクローラー”とは、実際どんな職業なのか?

“ナイトクローラー”という呼び名は造語で、通常業界では“ストリンガー”と呼ばれることも多く、フリーのジャーナリストのことを指す。大手通信社と契約したり個人で活動したりと様々で、劇中でもルイスが初めてテレビ局に映像を売り込みに行った際に、ディレクターのニーナ(レネ・ルッソ)に「あなたストリンガー?」と聞かれる。L.A.で活動するストリンガーによる映像や写真を見ると、世界有数の犯罪都市らしく事件・事故をおさえたものが多いが、大自然と隣り合わせの都市ならではのハリケーンや山火事、土砂崩れといった自然災害や、熊やサメといった動物に関わるものもあり、取り扱うネタが幅広い。その業界規模は不明だが、ルイスのように個人で活動するストリンガーや空撮を専門とするストリンガーも存在し、劇中同様、夜からテレビ局に映像を持ち込む日の出前にかけて競合同士で抜きつ抜かれつのスクープ合戦が行われているようだ。

RMG Mediaという会社が本作のテクニカル・アドバイザーとコンサルタントを務めており、ギルロイ監督は数年前に脚本を書きあげた時点で彼らに送り、協力を仰いでいる。RMGはL.A.を拠点に活動するストリンガーの代表的な会社で、過去、Fox News、CBS、NBC、ABCなどに多くのテレビ局に映像を提供。RMG撮影で過去最高額で売れた映像はポール・ウォーカーの自動車事故で、その額は6〜7,000ドル(約72〜84万)にも及んだという。過去にはCBS realityやTruTVにより彼らの活動にフィーチャーしたリアリティ番組まで作られている。

ギルロイ監督や出演者たちもストリンガー達の取材に立ち会い、実際の現場を体験。監督は彼らが火事やギャングの打ち合いなどといった暴力的な現場を目の当たりにしていることを知り、驚いたという。そして、彼らに「君たちはルイスのようなことをする?」と聞いたところ、「いや、そこまではやらないよ、法律は守る」と言いながら、「トラックが止まってしまい、車を寄せてカメラを構えて15分ぐらい待っていたら、3台車が玉突き事故を起こしたんだ」と、彼らが警察を呼ばず、車の事故を待ち構えていたことを明かしたという。ギルロイ監督の「それって間違っていないか?」という問いに対し、あるストリンガーは「僕らが事故を起こしたわけではないし、事故を防ぐのが僕らの仕事ではない」と答えたそうだ。そのことについて、ギルロイ監督は「彼のモラルは興味深いよ」と語る。監督は、実際に会ったストリンガー達に対して、「戦場の兵士や救急隊員と同じようなアドレナリンのほとばしり」を感じたという。そして、「犯罪現場や誰かの死に目というドラマチックで緊迫感のある状況に身を置くことから生じていて、そして奇妙なことに彼らはそれに中毒になっているようだった」と印象を語っている。

劇中、ルイスは視聴率がとれる刺激的な映像を手に入れるために不法侵入など序の口で、絶好のアングルのために証拠品を動かしたり、犯人情報の隠ぺいまでするなど行動をエスカレートさせていくが、程度の違いこそあれ、実際のストリンガー達から得た言動を参考にした部分もあるようだ。

そんなストリンガーの市場は、スマホやSNS使用人口の圧倒的増加、さらにカメラ機能の発達が最大のライバルとなり、2010〜2030年までの間に約30%減少するという指摘もある(http://work.chron.com/work-stringer-photographer-13769.html)。

“ナイトクローラー”やテレビ業界の裏側を通じて描かれる、メディアリテラシーの重要性も本作の大きなテーマのひとつになっているのだ。

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=53731

執筆者

Yasuhiro Togawa