第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門におきまして日本人初の監督賞に輝いた黒沢清監督作品『岸辺の旅』が、遂に10月1日(木)より遂に日本公開となります(テアトル新宿他全国ロードショー)。
黒沢清監督にとっては、初のロードムービー、そして初のメロドラマと言われている新境地とも言える本作は、主演に、数々の映画賞を受賞した『悪人』で、第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞を受賞した深津絵里と、映画『マイティ・ソー』でハリウッド映画デビューを果たし、『私の男』で第36回モスクワ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した浅野忠信というまさに国際的にも活躍する日本映画界を代表する2人の実力派が夫婦役で、この“究極のラブストーリー”を演じています。

黒沢清監督とは今回が初顔合わせとなる深津絵里と、黒沢清監督作品には映画としては『アカルイミライ』以来12年ぶりの出演となる浅野忠信という強力なタッグにより、3週間強で撮影された本作の撮影現場は、さすがに無駄のない黒沢監督の指揮の下、順調に撮影を進めていたが、実は、予測のできない大雨にたたられ、その災いが俳優陣にも及んだアクシデントがあったとプロデューサーは語る。ある日、ロケ場所に向かう途中で、なんと中央高速開通以来初めての豪雨による通行止めに。下道は大渋滞で全く前に進まず。後乗りする浅野忠信の車はほとんど立ち往生の状態になり、ついには「電車に乗ってきてください!」という緊急事態に陥った。マネージャーだけを車に残し、浅野忠信は豪雨のなか単身電車移動をすることになってしまったのだった。スタッフは恐縮で身の縮む思いで待っていたが、当の浅野忠信は珍しい体験になったことで、この小さな旅の車内の様子をツイッターに上げる余裕を見せながら一人現場にやって来たと言う。しかし雨はさらにひどくなり、東京に戻ることができなくなったスタッフは、その夜の俳優や監督ら皆の宿の手配にてんてこ舞い。悪化する状況のなか、迫りくる時間。融通のきかない宿にキレるスタッフ! 交渉のために再度かけた電話で「なんとかならないの!?」と詰め寄ると「…オレ、柄本なんだけど?」とのんびりとした柄本明の声が。パニックになるスタッフを尻目に淡々と現場での仕事をこなし、最悪ともいえる環境のなか夜を明かし、次の撮影に臨んだという俳優陣の適応能力はさすが! 特に浅野忠信は、鹿の頭のはく製が飾ってあるだだっ広い和室にぽつんと一人宿泊することになったのだとか。様々な役柄に変幻自在になりきることのできる彼らは精神だけでなく肉体的にもタフなのだとプロデューサーも感心しきりだった。

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執筆者

Yasuhiro Togawa