今を飾る、豪華若手キャストがここに集結。

直木賞受賞作家で、恋愛小説の大家、小池真理子の原作『無伴奏』(新潮文庫刊、集英社文庫刊)。日本中が混沌としていた 1969 年の杜の都・仙台を舞台に、時代に流されて学園紛争に関っていた多感な女子高生が、クラシック音楽の流れる喫茶店「無伴奏」で偶然に出逢った大学生と恋に落ちる。だが、想像すらできない出来事により、衝撃的な結末を迎えることになる・・・。高揚する時代と青春がもたらす、耽美でせつない世界が描かれるこの『無伴奏』は、1990 年に出版されて以来、『恋』『欲望』と並ぶ小池真理子の「恋三部作」として評価と人気の高い話題作です。
主人公の野間響子には成海璃子。最近では『極道大戦争』『ストレイヤーズ・クロニクル』と立て続けに出演作が公開、これまでも数々の映画、ドラマ、CM など幅広く活躍し続けるなかで、清楚で爽やかな役のイメージの多かった彼女が、本作では一転、激しい想いを抱える響子役で、女子高生から大人へと成長する女の性を繊細かつ体当たりの演技で見事に表現しています。

また、響子が心底のめり込むほど好きになってしまう堂本渉には、演技力に定評があり、今後の活躍にますます注目が集まる池松壮亮。渉は、なにかを背負って生きている、どこか儚さのある青年。昨年、『愛の渦』『ぼくたちの家族』『海を感じる時』『紙の月』などで映画賞 7 冠を達成して快進撃だった彼の実力を本作でまざまざと実感させられます。
渉の友人の関祐之介には、斎藤工。話題となった多くの映画やドラマ、CM に出演し、世の女性たちのハートを射止める彼ですが、本作では一瞬の表情に妖艶さのある、どこか翳りのある青年を演じています。
祐之介の恋人、高宮エマには、遠藤新菜。nonno モデルとして活躍している彼女が、バッサリと短いセシルカット(1957 年の映画『悲しみよこんにちは』にヒロインのセシル役で出演したジーン・セバーグのベリーショートの通称で、当時、流行した髪型)にし、新人女優ながらも快活で意志の強いエマを堂々と演じています。

ほか、響子の父親に光石研、響子の叔母に藤田朋子など、ベテラン個性派俳優陣が脇を固めています。
メガホンを取ったのは、矢崎仁司監督。日本大学芸術学部映画学科在学中、初の長編作品『風たちの午後』(80)で製作かつ監督デビューを果たし、『三月のライオン』(92)ではベルギー王室主催のルイス・ブニュエル「黄金時代」賞を受賞。国内外で高い評価を得る実力派監督です。『ストロベリーショートケイクス』(06)、『スイートリトルライズ』(10)、『不倫純愛』(11)、『1+1=11』(12)、『太陽の坐る場所』(14)に続き、本作が最新作となります。

今年の 2 月中旬から 3 月中旬、仙台ほかにて撮影、このたび映画が完成しました。2016 年公開です。

【原作・小池真理子さんからのコメント】
『無伴奏』は、作者自身の高校時代を描いた作品です。時は1960年代の終わりころ。当時、仙台で高校生活を送っていた私の、これはまさに、永遠に色あせない思春期の記録でもあります。
学園紛争があり、反戦フォーク集会があり、音楽、映画、文学、演劇など、すべてのサブカルチャーが一斉に塗り替えられて、学生たちの誰もがじっとしていられなかった時代でした。タイトルの『無伴奏』というのは、当時、仙台に実在したバロック喫茶の名前です。多くの若者たちがバロック音楽を聴きながら本を読み、思索にふけり、議論をし、幾多の恋が生まれたり消えたりしていました。
その、貴重な思春期の想いが詰まっている店を舞台にして小説を書いてから、すでに25年の歳月が流れました。矢崎仁司監督からの熱心な映像化の依頼があったのは、2010年。喜んでお受けしたものの、翌年には東日本大震災が起こります。中断に次ぐ中断を繰り返し、長い時間をかけながらも、しかし、監督の、この作品に向けた強い愛情はつゆほども揺るがずにいて、このたび映画は完成の運びとなりました。
試写を観ながら、私は客席で胸熱くし、自分自身のあの時代を思い返していました。時代背景の何もかもが、繊細に丁寧に描かれていて、私自身がスクリーンの中のどこかに隠れ、あの時代を生き直しているような感覚を味わいました。
矢崎監督と私は同世代。監督と原作者の、あの時代に向けた特別の想いが混ざり合って、またとない化学変化を起こしたのかもしれません。「無伴奏」の店内も完璧に再現されました。俳優さんたちの、役になりきった瑞々しい演技。近年稀れにみる映像美の数々。どれをとりあげても、この映画にかかわったすべての方々の無垢な情熱が感じられます。
多くの方々にご覧いただきたいと切に願っています。

【成海璃子さん(野間響子役)からのコメント】
響子は作中で起こる全てのことを背負って生きていく役なので、覚悟を決めて背負おうと思いました。
完成作品をまだ客観的に観ることは出来ませんでしたが、この現場に参加して良かったと、心から思いました。
たくさんの方に観ていただきたいです。

【池松壮亮さん(堂本渉役)からのコメント】
この作品のお話しを頂いたとき、矢崎さん渾身の作品がまわってきたなと思いました。こちらがやりたいと思ってやれるような監督ではないので、飛び込んでみようと思いました。
渉を演じるにあたり、特にありませんが強いて言えば、どの時代にもいる強さも弱さも持つ普通の男の生き様を見せられればと思いました。
成海さんとは初共演ですが、とても面白かったです。沢山救われましたし、戦友のような存在です。完成した映画は、強度のある、深みのある矢崎映画となっていて、一先ずほっとしております。

【矢崎仁司監督コメント】
小池真理子さんの小説は以前から好きで読んでいました。『無伴奏』の映画化の話を、5年くらい前に、あるプロデューサーから頂いたときは本当に嬉しかったです。反面、こんな凄い小説を映画にできるのかという畏れもありました。だけど、生身の俳優たちで、この小説の登場人物たちを映し撮りたいと挑みました。
映画を作りはじめた頃から、ノーマルとかアブノーマルという言葉に疑問を持っていました。だから最初の長編映画『風たちの午後』は、女性同士の愛についての映画です。その後の『三月のライオン』は、兄と妹の愛の映画です。ですから、当然私がこの原作『無伴奏』に巡り合うのはある意味宿命だと感じます。私は今の社会で、誰もが正しいと信じて疑わない事こそ、大きなクエスチョンマークをつけるのが芸術家の仕事だと思っています。
いつも映画を作るたびに、私はなんてラッキーなんだと感じます。映画とは旅に似ていると思います。旅の途中、いろんな人に出会って、映画のエンドマークまで。そして、この映画を観てくれた人たちに出会う訳ですけど。製作途中の旅では、素晴らしい俳優たちに出会ったと思っています。成海さん、池松さん、斎藤さんほか、皆さん素晴らしかったです。何度助けられたか解りません。エンドで涙が零れてしまうのは、彼女、彼らが本当に苦悩しながら諦めないでカメラの前に立ち続けたことを私が知っているからなんです。
日本中が学園紛争の嵐のかなで、地方都市で思春期を過ごした一人の少女の成長物語な訳ですが、あの時代の空気感を、あの時代に生きた人たちに観てもらい、あのとき吹いていた風を思い出してもらえたら嬉しいです。それと同時に、今、主人公と同じ年齢の高校生や大学生たち含めて若い方たちにも、いつの時代でも変わらない反抗心や愛について感じて欲しいと思います。

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa