劇団・青年団を主宰し、日本を代表する劇作家・平田オリザとロボット研究の世界的な第一人者である石黒浩( 大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長 )が、芸術と科学が交差する画期的な演劇プロジェクトを共同で進めている。そしてこの人間とアンドロイドが舞台上で共演し、その異質な完成度の高さに国内に留まらず世界各国で衝撃を与えた記念碑的作品「さようなら」が今度は映画化されることになった。
脚本・監督は『歓待』(10)で、東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞、『ほとりの朔子』(13)でナント三大陸映画祭グランプリ&ヤング審査員賞をダブル受賞。タリンブラックナイト映画祭で最優秀監督賞を受賞し海外から注目を集める気鋭の映画作家・深田晃司。
映画の中心となるアンドロイド・レオナ役を演じるのは、石黒氏が中心となり大阪大学で開発された【本物の】アンドロイド、ジェミノイドF2。4月から放映中のバラエティー番組「マツコとマツコ」にも石黒浩が手掛けたマツコ・デラックスのアンドロイドが出演、そのリアルな存在は広く知られるようになった。そのアンドロイドと暮らす主人公・ターニャには同舞台でも同じ役を演じているブライアリー・ロングが務める。また新井浩文や村上虹郎など、日本映画界を代表する俳優陣が脇を固める。
この映像化の試みは、映画にしかできない時間表現・空間表現・映像表現を駆使して、「さようなら」の描く死と生の世界を再構築している。

●深田晃司(脚本・監督)コメント
・本作を映画化しようと思ったきっかけ
 2011年に原作となる演劇『さようなら』を初めて鑑賞し、即座に原作者の平田オリザ氏に映画化を熱望しました。惹きつけられたのは、その劇空間に満ち満ちた予兆のような死の匂いです。死にゆく人間と死を知らないアンドロイドの対話は、芸術家がこれまで連綿と描いてきた「メメント・モリ(死を想え)」の芸術の最前衛にあるものだと思いました。
 死へと至る濃密な時間、それと裏返しの生の輝きをスクリーンに刻みつけたい、そんな欲望に私は舞台を前にして震えたのです。そしてまた、死の闇を思い出させないよう高度に制度化された現代社会にこそ、『さようなら』のような死を見据えた表現は求められ、その価値を増すのだと確信しています。私たちはいつか必ず、自らの死と向き合う日が来るのだから。

・撮影について(大変だったこと、アンドロイドの撮影シーンについてなど)
 撮影は時間と天候との戦いでしたが、素晴らしいスタッフ、キャストに支えられ最高の結果を出すことができました。
 特筆すべきは、レオナ役を演じたアンドロイドのジェミノイドFさん。彼女は映画初出演でありながらほとんどNGも出さず過酷な撮影にも文句を言わない見事な女優ぶりで、すぐに現場の人気者になりました。 ぜひ、彼女の銀幕デビューを目撃してください。

・公開を待つ皆さんへメッセージをお願いします。
 これまでの私の作品を見てくれている人にも、初めましての映画ファンの方にも、ぜひ見て欲しい作品に仕上がりました。まったく新しい日本映画が完成したと自負しています。劇場公開をどうぞ楽しみにしていて下さい。

<物語>
日本で稼働する原子力発電施設の爆発によって放射能に侵された近未来の日本。日本の国土の大半が深刻な放射能汚染に晒され、政府は「棄国」を宣言した。各国と提携して敷かれた計画的避難体制のもと国民は、国外へと次々と避難していく。その光景をよそに、避難優先順位下位の為に取り残された外国人の難民、ターニャ。そして幼いころから病弱な彼女をサポートするアンドロイド、レオナ。彼女たちのもとを過ぎていく多くの人々。そしてそれぞれの生と死。やがて、ほとんどの人々が消えていく中、遂にターニャとレオナは最期の時を迎えることになる・・・・・。

<原作・アンドロイド演劇「さようなら」とは>
平田オリザとロボット研究の第一人者である石黒浩( 大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長 )が、大阪大学にて2007年から共同で進めているロボット演劇プロジェクトの最新作であり、人間俳優とロボットが世界で初めて共演し、芸術と科学が交差する画期的なコラボレーション作品。2010年、世界に先駆け「あいちトリエンナーレ」で初演され、その後も東京、大阪、オーストリア、フランスなどでも上映され、現在も各国より上演依頼が殺到している。まさに21世紀初頭に生まれた歴史的記念碑的演劇であると言える。 
 約20分の短編作品の中で、死を目前にした少女にアンドロイドが谷川俊太郎、ランボー、若山牧水などの詩を淡々と読み続けるその静謐な時間は、「人間にとって、ロボットにとって、『生』とは、そして『死』とは…」、鋭く問いかける。

関連作品

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執筆者

Yasuhiro Togawa