人類初の勝利で終わった前編
勝利を得た代償で始まる後編

——劇場版後編の公開に目前に迫ってきた今、キャストの皆さんはどのようなお気持ちでいらっしゃるものなんでしょうか?
梶 我々としては、こういった取材を受けたり、舞台挨拶のスケジュールなどを伺ったりすると、いよいよ作品が皆さんの元に届く時が近づいているんだなということを実感します。
実際にやったことといえば、新規カットや新編集部分のアフレコですかね。
神谷 リヴァイは、なかったからなあ。
梶 そうなんですね。僕はいくつか追加があったうちのひとつにクライマックスのシーンもあって。非常に難しい作業だったというのを覚えています。
——どんなふうに難しかった?
梶 この後編のクライマックスにあたる、エレン巨人と女型の巨人の戦闘が本格的に始まっていく中で、エレンのモノローグがあるのですが、
そこはもう自分の中でもエレンの中でも、かなり複雑な想思いが高まっているシーンだったんですね。TVシリーズであれば、
そこに向けての心情を、同じ日に流れの中で積み上げていけたので気持ちをもっていきやすかったですけど、今回はそのシーンのみを切り取っての収録だったので、
スタートと同時に自分のテンションをピークにまで持ち上げておかなければならない、というテクニカルな作業がとても難しかったです。
——リヴァイは新規の収録がなかったというお話でしたが、完成を待つ間はどのシーンが使われているのか気になるものですか?
神谷 もちろん、それはそうですね。「あんなに一生懸命やったのに!」と言いたくなるような、そういうシーンばかりなので。
でも、作品を構成する上で全シーンから取捨選択をされたと思うので、それに関しては全員が納得するものになっているはずだから、取り立てて「このシーンがなくて残念!」とか、おそらくないと思います。
梶 監督ご自身がTVシリーズも作られて、劇場版も再編集されているわけですから、ただただその感覚を信じて僕たちはついていくだけなのかなと。
神谷 完成する前に取材を受けないといけないときがあって、それにあたって新規カットのコンテやそれに対する監督の思いが手書きで書かれた紙をコピーで渡されて、
そういう貴重な資料もいただいたりしているので監督の思いはわかっているから、さっきの話につながっていくわけです。
——では、後編の見どころについてお話をしていただければと思います。
梶 後編はリヴァイをはじめとする調査兵団という組織にエレンが属して、そこでの戦いがメインになっていくお話です。
神谷 エレンが人類を初の勝利に導くところで前編が終わって、後編は「勝利を得た代償」みたいな話からスタートするので、
前後編でよく分けられているし、「進撃の巨人」はよくできた作品だなと改めて思いました。後編はリヴァイが活躍するシーンが前編に比べて大幅に増えています。
巨人と戦う準備をしていた前編に対して、後編は戦いの準備ができて、いよいよ壁外に出ていく。急に世界が広がったような印象がありますね。
梶 個人的には、リヴァイ班の面々との何気ないシーンから凄惨な最期まで、そのどれもが印象に残っているシーンです。
先日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに取材に行かせていたんですが…「進撃の巨人・ザ・リアル」というアトラクションで、
リヴァイ班の面々が殺されてしまった瞬間がクロノイドになって展示されていたんですね。「死」というものは、あくまで想像の中でお芝居して、
どれだけ生々しく表現して実感していただけるかが大事だと思うのですが、今回、精巧に作られたクロノイドによって表現されたキャラクターたちの死に様を見て、
より悲しかったですし、「死」というものの怖さを非常に強く感じました。改めて劇場版の後編を見て、彼らの存在はより大きくなるんじゃないかと思います。
神谷 「死」というものに対して、例えば「ここで2、3人やられているので、悲鳴をお願いします」と言われることが、我々の仕事の中ではわりとよくあります。
でも、そうやって一瞬でやられていく人たちにだって、それぞれの人生があるわけじゃないですか。その様を記号として表現することに違和感を覚えるようになったのは
「進撃の巨人」をやるようになってからですね。この作品はひとりひとりにスポットを当てているし、エレンという主人公を通じることによって、
生きるということに執着している人たちの強い感情が自然に流れ込んでくる。ちょっと異質な作品なんだろうなと思います。

スタジオの空気の中でこそ
キャラクターが生きてくる

——リヴァイの活躍シーンが大幅に増えるという後編ですが、梶さんとしてはリヴァイにどんな印象がありますか?
梶 圧倒的ですね(笑)。 エレン役として色々な表舞台に立たせていただくときも、リヴァイの激しい人気を感じますし(笑)。みんなリヴァイ大好きなんだな、って。
神谷 不思議だよねえ(笑)。
梶 まあ、それはさておき、やはり強さや存在感は圧倒的だと思います。原作を読んでいるときもそうですし、お芝居をしていてもそうでしたけど、
審議場でのシーンは恐怖すら感じました。別に悪意はないんでしょうけど、それが逆に怖いという印象を受けたので、何をしても勝てない存在だと思います。
——その圧倒的な存在感は、神谷さんのお芝居からも感じましたか?
神谷 言いづらいよね(笑)。
梶 いや圧倒的です(笑)。僕個人的には、神谷さんがリヴァイのような役を演じられているのはあまり見たことがなかったのですが、最初に「リヴァイ役は神谷さんです」と聞いたときに、
不思議とすんなりと受け入れられたのは……何ででしょうね? リヴァイ的なものを感じるからですかね?(笑)。それはわからないですが、
勢いやパワーで押すのではない「柔の強さ」みたいなものをお芝居からも感じましたし、神谷さんご自身の印象もそれに近いものがあります。
——「リヴァイは怖い」と言った後に「神谷さんにリヴァイ的なところがあるのかも?」と言うのも申し訳ないような……(笑)。
梶 いやいや、また違った側面の話ですよ(笑)。でも、僕が言うのもなんですが、みんなどこかしらキャラクターに近い部分はありますよね?
神谷 まあ、リヴァイの神経質なところは僕も理解できるんですよ。僕もそういうタイプの人間だから。ただ、それ以外のところで共感を得られるかと言われれば、かなり難しいですね。
リヴァイを演じるにあたって何がいちばん重要かというと、あのスタジオの空気ですよね。みんながスタジオにいて、マイクがあって、
モニターがあって、荒木(哲郎)監督、三間(雅文)音響監督がいて、それぞれが思い描いている音を持ち寄って、それを監督に聴いていただいた上で三間さんが調整していくという、
この作業がなかったら絶対にできないです。だから最近、別の形に姿を変えて「進撃の巨人」のキャラクターたちが活躍することがあるのですが、これが非常に大変なんですよ。
梶 本当に大変です(笑)。
神谷 アニメーションだと段階を経てやらせてくれるので、大変ではあるけど達成感はあって。それをひとりで「じゃあ、どうぞ」と言われると、どうしよう?となりますね。
やっぱり「進撃の巨人」はスタッフがひとりでも欠けたらできない作品だろうなという思いが強いです。
——つまり、「エレンの声やって」「リヴァイの声やって」と簡単に振られて、それでできるというものではない?
神谷 できなくはないのかもしれないけど、本質的なところでは、もしかしたら違うかなとは思ってしまいます。
梶 エレンの声がどうとかって、そういう細かいことは特に考えていない作品かもしれません。
神谷 「この場面の、この気持ちを音にしろ」と言われるから、自然とわいてくるものなのかなという気はしますね。
梶 エレンは常に何かに怒りをぶつけていないとできないというか(笑)。楽しそうな声をやってくれと言われても、どう言ったらいいのかわからなくて。
神谷 これが完結した作品であれば自分の中でキャラクターを消化できて、違和感もなくなってくると思うんですけど、
我々はまだ渦中にいるから、どうしても「エレンやってください」「リヴァイやってください」と言われたときに「この時間軸のどこなんだ?」と思ってしまうんですよ。
平和な世界なのか、巨人が今いる世界なのか。壁の中なのか外なのかって、そういうシチュエーションをぼんやりさせながら、とりあえずやるしかないのですが、
僕も梶君も性格がそこまで器用じゃない。そういう人なんです、僕らは。切り離して考えられなくなっちゃう。
梶 割りきれない…というか「だって、エレンってこうじゃん」と思ってしまう。
神谷 急にできなくなっちゃうんだよね。それはわかる。難儀だなあと思う。

エレンとリヴァイの関係性は
どう変化していくのか……?

——神谷さんからご覧になって、エレンを演じる梶さんの姿はどのように映っていらっしゃいますか?
神谷 いや、恐ろしいですよね。梶君という人間を僕は正確に知っているわけではないけれども、本当に恐ろしいなと思います。まず、持ってくる熱量が全然違うんですよね。
独特な熱量を持っているから、それを正しい音にしていく作業は音響監督からしたら大変なんだと思うんです。それを三間音響監督が正しい方向に導いていく作業を見ていて、
F1みたいな高度なスポーツを見させられている感覚にたまに陥ります。そうやって何かを懸けられる人って何人もいるわけじゃないと思うから、声優として活躍している梶君の現状って、
ある意味で当たり前だと思うんですよ。あまりにもいろんなことができすぎる故に、心配にはなりますよね。能力がある人はどんどん忙しくなるべきだと思うし、
そういう人が関わることによって作品のクオリティーも上がっていくんですけど、でもやっぱり梶裕貴はひとりしかいないから、その辺はすごく心配です。
梶 いやいや、そんなそんな……。
神谷 「進撃の巨人」をやらせてもらっているなかで、「トップランナーって、こうじゃなくちゃいけないんだな」という背中は見せてもらっています。
梶 ……変な汗が出てきた(笑)。日頃から、嘘はおっしゃらない方だとは思っていますけど……。いや、ありがたいお言葉をいただいたので、より気を引き締めねばなと思います。
神谷 あと、ウジウジクソ野郎です(笑)。
梶 クソもついちゃいますか!? …まあ、当たっているなとは思いますが(笑)。
神谷 100褒められているくせに、1けなされるとそればかり気になっちゃう。僕もそうだけどね。
——いつかエレンもリヴァイにお褒めの言葉をもらえる日が来るのでしょうか?
梶 リヴァイが本当のところはどう考えているのか、全くわからないですけど、エレンはリヴァイに褒められたら当然うれしいと思いますよ。上司ですからね。
逆に裏があるんじゃないか? 何か起きるんじゃないか?とも思いそうですけど(笑)。僕にとって神谷さんは、とても仲良くさせていただいて、
色々なところでお世話になっている先輩ですが、…彼らは常に死と隣り合わせの場所で、何日間も一緒に過ごしているわけですから、僕らとはまた形が違う結びつき……
絆みたいなものが確実にあると思います。エレンのことを簡単には褒めたりはしないんでしょうけど、大事な仲間だとは思ってくれているんじゃないかと思います。…思いたいです(笑)。
——リヴァイからエレンへの思いを、神谷さんはどうご覧になりますか?
神谷 いつも言うことですけど、得体のしれない奴ではありますからね。リヴァイの考え方として、「生き残る」ということが一番の目的なんだとは思うんです。
その「生き残る」の範囲内にエレンが入っているのかは、僕にはわからない。今はエルヴィンの命令に従って側に置いていますけど、そうじゃなかったら側に置かないだろうと思うんですよね。
というのもやっぱり、不確定要素なので。巨人の力を持っている、たぶん自分の手には負えないという存在で、最終的に何かあったら自分の手で殺すと思っているのは間違いないでしょうね。
ただ、梶君も言ったように死と隣り合わせの状態で、共有していく時間が長ければ長いほど、彼の中にも仲間意識は芽生えてくると思うので、
警戒はしつつも「情」みたいなものが生まれているところはあるんだろうなと思っています。

楽しむほどに疲れちゃう?
独特の空気がある舞台挨拶

——公開記念舞台挨拶のスケジュールも発表になりました。梶さんはミカサ役の石川由依さん、アルミン役の井上麻里奈さんとの「幼なじみトリオ」で各地を回られますね。
梶 おなじみのメンバーです(笑)。後編に関してはミカサ(石川さん)、アルミン(井上さん)と一緒にしゃべるということはまだしていないので、
監督も含めて、皆さんがどういう想いでこの後編に臨んでいるのかという話を舞台挨拶で聞けるのは、僕自身とても興味深いですね。
神谷 僕は「進撃の巨人」で人前に立つことがほとんどなくて、昨年のMBSアニメフェス以来なので、脚が震えないようにしたいです(笑)。
梶 お客さんの雰囲気が他の舞台挨拶と違うというか……重たいです、空気(笑)。上映前の挨拶でも緊張感がありますし、終わった後はみんな、どっと疲れていて。
でも、話し始めると僕たちがしゃべったことに頷いてくださったり、共感してくださったりして、本当にこの作品を愛して、楽しんでくださっているんだなというのが伝わってくるような、
素敵な前編の舞台挨拶でした。
——では、後編を上映する映画館に足を運ばれるであろうファンの方へ向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
神谷 インタビュー中にも言いましたが、非常によくできた前後編になっていることは間違いないと思いますので、より濃縮された2時間を楽しんでいただきたいなと思います。
たぶん、いちばん見ていただきたいのはTVシリーズに乗り遅れた人たちですよね。これを見て詳しく知りたいなと思った方は、原作ないしTVシリーズを見ていただけるといいなと思いますし、
そうじゃないとしても、「進撃の巨人」を知るためにはとても優れた入門編だと思うので、ぜひ劇場で見ていただければ幸いです。また、アフレコ台本を見て気づいたのは、
最後のカットに監督の思いがほとばしっているんですね。それがよくわかるト書きを、せっかくですのでここで披露させていただきたいと思います。「映画が終わって客電がつく。
思い思いの感想を胸に帰路につく客たちに幸あれ!」——こういう思いで作られた作品ですので、ぜひ思いを受け取ってお帰りいただければなと思います。
梶 前編の舞台挨拶のときに毎回お聞きしていたのですが、「初めてこの作品をご覧になられる方」という質問に対して、大勢の方が手を挙げられていたんですね。それがうれしかったんです。
タイトルは耳にしたことがあるけど観る時間がなかったりだとか、怖いというイメージが先行していたせいで内容をご存じなかった方々がこの劇場版を機に、作品に触れてくださったわけですから。
なので、そういった方々も含めて後編を観に来ていただけるとうれしいなと思います。僕は前編を観終わったとき、早く後編が観たいと思いました。きっと皆さんも同じ気持ちだと思いますし、
後編を観たら、きっと続きが早く観たいと思ってくださるはずです。僕自身続きが早く観たいので、そのためにも引き続き「進撃の巨人」を応援していただき、同時に、
キャラクターや世界観も今まで以上に愛していただければなと思っております。

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執筆者

Yasuhiro Togawa