少女がその先にみたもの−−−
風が吹きわたる緑の草原。まばゆい光りの中、そこに暮らす少女の淡い恋。
しかし、そのささやかな幸せに暗い影がさす。

その少女は、大草原にポツンと立つ小さな家で父親と暮らしていた。家の前には家族を見守る一本の樹。毎朝、どこかへと働きにでかける父親を見送ってはその帰りを待つ。繰り返される穏やかな生活に、少女はささやかな幸せを感じていた。地元の少年が少女に想いを寄せる。どこからかやってきた金髪の少年もまた、美しい彼女に恋をする。3人のほのかな三角関係。そんな静かな日々に突如、暗い影がさしてくる…。

ロシアの新鋭アレクサンドル・コットが、旧ソ連で実際に起きた出来事にインスパイアされて作り上げた、来るべき未来を予感させる物語。時代と場所を特定せず描かれる本作は、台詞が一切ないにもかかわらず、饒舌に私たちに語りかけ一瞬たりとも見逃す隙を与えない。タルコフスキーの『サクリファイス』をも想起させ、SF映画の要素を盛り込みながら、人間の日々の営みへの温かい眼差しに溢れるファンタジー映画である。昨年の東京国際映画祭で上映されるや、無垢な少女の透き通るような美しさと衝撃のラストに誰もが心奪われ、話題騒然となった『草原の実験』の劇場公開が決定しました。

9月、シアター・イメージフォーラム ほか全国順次ロードショー

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執筆者

Yasuhiro Togawa