この度、昨年の第67回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドール大賞受賞作品『雪の轍(わだち)』を6月27日より、角川シネマ有楽町および新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開致します。
本作品は、カッパドキアを舞台に、今はホテルのオーナーとして暮らす元舞台俳優のアイドゥンと、若く美しい妻、そして妹との愛憎、さらに主人公への家賃を滞納する聖職者の一家との不和を描きます。彼らの住むカッパドキアに雪が積もるにつれ、お互いの内面が静かに明らかになっていき、ストレートな言葉で感情をぶつけ合う彼らには、そこはかとない滑稽さも漂い、見応えのある作品となっています。
3時間16分の長尺にも関わらず、濃厚な世界観と人の心をえぐる展開、そして圧倒的な映像美によって紡がれる本作には、世界的なメディアから絶賛が相次ぎました。監督は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門にてグランプリ2回(2011年「昔々、アナトリアで」、2003年「冬の街」)と監督賞(2008年「スリー・モンキーズ」)を受賞したトルコが誇るヌリ・ビルゲ・ジェイラン。満を持してのパルム・ドール大賞受賞作品であり、初の日本公開作品になります。

そんなパルム・ドール大賞を受賞した本作には、なんと!日本人が2名出演していることが判明!
今回、そのうちの一人、村尾政樹さん(24歳)にパルム・ドール作品への出演秘話について聞きました。

北海道在住の村尾さんは2012年〜13年にトルコへ留学。その際に、日本にゆかりのあるトルコ各地を旅し、ある日訪れたカイセリの大学で教授に「映画に興味はあるか?」と聞かれ、トルコ映画を何本かみたことがあったので「あります!」とこたえたところ、ジェイラン監督のスタッフから連絡があったそう。写真やプロフィールなどを送ってメールでやり取りをしたのち、1週間カッパドキアへ行くことになった。
現地に着くまでは、「もしかしたら新手の誘拐かもしれない…」と心配だった村尾さん。撮影クルーに合流してようやく本当に撮影なのだと信じることができた。「ジェイラン監督のことを全く知らなかったのですが、世界中からスタッフが集まっていてすごいひとなのだと思いました。」と振り返る。

村尾さんが演じたのは、主人公アイドゥンが営むホテルに滞在している日本人観光客。最初は「ハロー」と一言、言うぐらいだと聞いていたが、毎日出番があった。“日本人観光客”役であること以外は何も伝えられることはなく、台本もリハーサルも一切なし。
「では、これから主人公のホテルオーナーと観光客が話しているシーンを撮ります。はい!」と突然撮影が始まり、アドリブで全シーンを演じた。
「監督は僕たちに、「とにかく自然にしていてくれればよい」と言っていて、たまにいつからいつまでカメラが回っているか分からないときもありました。
夫婦役でもうひとりカッパドキア在住の日本人女性と、主人公役のトルコ人俳優ハルク・ビルギネルと3人で話すシーンがあったのですが、出身地を聞かれたので、神戸と答えたら、阪神淡路大震災の話になって。トルコの人は、トルコも大地震を経験しているので、阪神淡路大震災や東日本大震災のあった日本にはシンパシーがあるのですよね。「あの時、僕はいくつだった…」などと話していたら、奥さん役の方が「わたしはいくつだった…」とおっしゃったその年が僕のひと回り上で驚いてしまって!「えぇ、そんなに年上だったのですか !」と日本語で素のリアクションをしてしまいました。
監督は「その日本語で話すのいいねぇ」と喜んでいましたが、このシーンが使われてしまったら、日本人の観客にだけ夫婦じゃないことがばれてしまってまずいね(笑)などと話していました」

一方で、本編で主要な登場人物たちは常に長い台詞を話している。監督も、演出について「彼らを自由にさせたとは言えません。私は、シナリオに書いたとおりの台詞を言ってもらいたかったのです」と語る。一部、さらなる可能性を求めて即興演技も取り入れたようだが、あくまでシナリオとはかけ離れないものだったという。
村尾さんがわさびについて主人公アイドゥンと雑談をするシーンがあるのだが、その話をすると、村尾さん本人は「そんなこと言ってましたっけ?」と、覚えていなかった。それぐらい、その場で思いついたことを自然に話していたようだ。ジェイラン監督については、「トルコ人にしては寡黙なほうだけれど、気さくな人でした。」と語る。「ちょうど311の後だったので、日本のことをとても心配していました。」とも。そして、「現場では、本当に主役のハルク・ビルギネルにリードしてもらいました。仲良くなって一緒に写真を撮ったりしましたが、その写真を見せたらトルコ人の友達はものすごく驚いていました。ものすごい大物だったみたいで(笑)」と笑う。
「パルム・ドール受賞を知ったのは、フェイスブックでした。」ジェイラン監督の助手とフェイスブックでつながり、そこで『雪の轍(わだち)』についての情報が流れてくるのでよく観ていた。「映画業界には疎いですが、自分が参加した映画が、まさかカンヌ国際映画祭で一番良い賞を取るとは!」と、とにかく驚いたそう。
実はトルコ滞在中に大統領にも会う機会が会ったという“もってる”ラッキーボーイ村尾さん。少しふざけて「役者として、将来は大好きな榮倉奈々さんと共演がしたいですね」と笑いつつ、「『雪の轍(わだち)』はとても素敵な映画だと思うので、一人でも多くの方々に知っていただきたいです」と、いち出演者として語った。

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執筆者

Yasuhiro Togawa