マイケル・アルメレイダ監督がイーサン・ホークを主演に迎えた『ハムレット』に続き、再度シェイクスピア劇を映画化!舞台を現代に移し大胆にアクションを加えた、豪華キャストによる映画『アナーキー』(原題:CYMBELINE) 。 いよいよ今週末 6/13(土)より新宿シネマカリテ(カリコレ 2015)にて公開の本作ですが、マイケル・アルメレイダ監督のインタビューを解禁。

『アナーキー』マイケル・アルメレイダ監督インタビュー

・なぜ『シンベリン』を選んだのか?
『シンベリン』はとてもダイナミックで、さまざまな要素が詰まった物語だ。シェイクスピアの四大悲劇の要素を併せ持ち、神話のような壮大さもある。それに、男性登場人物の虚栄心と危険性に惹かれた。女性を信用できない、獰猛で情熱的な戦士たちだ。

・時代と場所の設定
2000 年に公開されたイーサン・ホーク主演『ハムレット』の姉妹編と考えてもらっていい。目指しているのは、400 年前のシェイクスピアの戯曲に現代のリアリティを加えて、その登場人物、状況、テーマを現代と結びつけることだ。シェイクスピアが異なる神話時代(古代ローマやキリスト教以前のブリテンやウェールズ)を物語に融合していたように、今のアメリカのギャング文化、バイカー文化が持つ集団の同盟意識は、戯曲に描かれている昔の部族世界と融合できると思った。ペンシルベニア州スクラントンを視察して、工業化の栄光の影がくすぶる廃れた炭鉱の町を舞台に展開するアクションを思い描いた(予算の関係で、スクラントンのような場所を見つけて、ニューヨーク州の中だけで撮影した)。

・参考にしたもの
一番影響を受けたのは、ヤン・コットの「シェイクスピアはわれらの同時代人」だ。この本では、シェイクスピア劇はいつの時代にも関連性があり、その劇を見る各世代の価値観や大切にするものを映し出す鏡だという考えを説いている。オーソン・ウェルズのシェイクスピア映画も参考にした。彼は低予算で撮った『マクベス』のことを「偉大な戯曲を、乱暴に木炭で描きなぐったスケッチだ」と表現した。
HD ビデオを使って 20 日間で撮影した『アナーキー』は、手早く描いた水彩画のようなものだけど、首尾一貫した美しい絵になるよう、十分に計算し尽くされているよ。パゾリーニ監督の影響もある。最近、ニューヨーク近代美術館で開かれていた回顧展で、彼の映画を改めて見た。ソフォクレスやチョーサー、聖書といった有名な物語を、古典とモダンな要素を融合させ再生するパゾリーニの型破りな作風は、とてもスリリングだ。彼の映画のイメージには直感的な気づきがあるし、今見ても強烈で新鮮だと感じたよ。僕が初めて『シンベリン』を読んだ、両親の「シェイクスピア全集」に描かれていたロックウェル・ケントの挿絵に似ているところがある。 (驚いたことに、『アナーキー』の撮影監督を務めたティム・オアーは、パゾリーニの映画を1本も見たことがなかった。だから、僕が簡単なレクチャーをしてあげたよ。)

・キャスト
一番に脚本を読んで、出演を決めたのはイーサン・ホークだ。『シンベリン』はあまり知られていない作品だけど、そんなことに構わず、僕たちはこの物語をエキサイティングで、奥深いものにしようと試行錯誤した。最も有名なシェイクスピア劇で主人公を演じたイーサンが、今度はシェイクスピア劇の中でも知名度の低い作品で謎めいた悪党ヤーキモーを演じるというアイデアが、2人とも気に入ったんだ。
ヤーキモーはトリックスターであり、誘惑する男、ヘビのような男だ。しかし、彼には自分の中の自意識と偽りを露わにするセリフがある。イーサンは、彼の黒い心の内が見え隠れするよう絶妙に演じきった。『シンベリン』を知らなかった他の役者たちも、ヤーキモーの正体を発見していく感覚だったよ。
エド・ハリスとは、サンダンス・ディレクティング・ラボで共にアドバイザーを務めていたことがある。イーサンの次に、エドがシンベリン役を演じることが決まった。これまで観た『シンベリン』の舞台では、シンベリンという男は横暴で無能な人物として演じられていた。だが、我々はまったく逆にした。エド演じるシンベリンは荒くれ者だが、堂々としたリーダーだ。恐ろしく、威厳があるが、暴力的で視野が狭い。次から次へと彼を災難へ陥れる側近者を愚かにも信じ続けるんだ。
ミラ・ジョヴォヴィッチはクイーン役にぴったりだと思った。この役には人目を引く美しさが必要だが、その魅惑的な外見の裏には悪意を隠し持っている。ミラも私の考えに同意して、このキャラクターが抱える悪意を探求してくれた。実際は、一人息子のことが心配で目が離せない愛すべき母親でもある。
ポステュマスとクロートンはイノジェンを取り合う似た者同士であり、2人とも嫉妬に駆られて錯乱していく。イノジェンが見間違えるのだから、この2人は体格的にも似ているべきだと思った。アントン・イェルチンに役の選択権を与えたところ、悪役クロートンを選んだ。彼はこのキャラクターの傷ついたナルシシズムを上手に際立たせたね。ペン・バッジリーは、ポステュマスに愛嬌と繊細さ、品位をもたらした。スケートボードで旅をしているという彼自身の経験も役立ったと思う。
一番の長身デルロイ・リンドーは、重みと深みのある声で、追放されたベレーリアスを演じてくれた。
ベレーリアスは誘拐した王の息子たちと暮らしている元戦士だ。デルロイが、青い目のブロンド青年の父親だと主張する男を演じるのは意外かもしれないが、この矛盾感こそがシェイクスピア劇の不条理さと結びつくと思ったんだ。2013 年にヴォンディ・カーティス=ホールと一緒に短編映画を撮った。バズ・ラーマン監督作『ロミオ&ジュリエット』で彼が演じた傲慢なプリンス署長には衝撃を受けたよ。シンベリンの手強い敵役ケーヤス・リューシャスには彼しかいないと思った。
ジョン・レグイザモがラーマン監督作のティボルト役で見せたエネルギッシュな演技もすばらしかった。彼はどんな役でもこなせる見事な俳優だよ。ポステュマスへの忠誠心に葛藤するピザーニオは、弱弱しくて辛気臭い仲間として演じられることが多いけれど、ジョンだったら、ピザーニオにある種の強さやずる賢さ、勇敢さを感じさせてくれるだろうと確信していた。
この物語において重要な鍵を握るのはイノジェンだ。知らぬ間に忍び寄る裏切り、詐欺、トラウマの中、イノジェンが劇中で最も大きな変貌を遂げる。ダコタ・ジョンソンに初めて会った時には、残念ながら君の役はないと言った。まだ名前が知られていなかったからね。僕たちはとてもリラックスして話し合った。それで、彼女の正直さ、知性、ユーモアに心を掴まれたんだ。その後で仲間のプロデューサーにこう伝えた。もし興行収入ランキングを気にする必要がないなら、彼女こそが僕が求めるイノジェンだと。結局は、ミラ・ジョヴォヴィッチの出演が確定した後で、ダコタ・ジョンソンにも出演してもらえることになった。(撮影開始の1週間前に、彼女が『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』で主演を務めることが決まったのさ。)

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執筆者

Yasuhiro Togawa