この度、三上智恵監督(『標的の村』第 87 回キネマ旬報ベストテン文化映画第1位)の最新作『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』が完成しました。本作は、今まさに沖縄・辺野古で進められている米軍新基地建設を巡るドキュメンタリー映画です。当初は、7 月の劇場公開を予定しておりましたが、刻一刻と変化する情勢のなかで「一日でも早く多くの人に見てもらいたい」という監督はじめ製作者の強い思いをうけ、劇場・ポレポレ東中野と協議した結果、予定を大きく前倒し、5/23(土)より同館にて緊急先行上映を行うことを決めました。

あの『標的の村』から 2 年——スクリーンに叩きつける伝えきれない沖縄。

辺野古の海を埋め立てて最新のアメリカ軍基地が作られようとしている。2014 年 8 月 14 日、大浦湾を防衛局と海上保安庁の大船団が包囲。建設に抗議するわずか 4 隻の船と 20 艇のカヌー隊を日本政府は機関砲を装備した大型巡視船まで投入して制圧した。陸上でも工事を止めようと座り込む市民の前に立ちはだかるのは沖縄県警。国策に引き裂かれた県民同士の衝突。「私を轢き殺してから行きなさい」と工事車両の前に身を投げ出したのは、あの沖縄戦を生き延びた 85 歳のおばあ。沖縄の怒りは臨界点を超えた。11 月の県知事選は保革を越えた島ぐるみ闘争に発展。「イデオロギーよりアイデンティティー」と新基地建設反対の翁長雄志氏が圧勝、続く衆院選でも民意を叩きつけた。しかし国策は止まらない。海上の抗議活動を屈強な「海猿」たちが排除していく。日々緊張を増す現場で負傷者や逮捕者が出る。

はたして今、沖縄で本当は何が起きているのか? 本作が描くのは激しい対立だけではない。基地と折り合って生きざるをえなかった人々の思いと来し方。苦難の歴史のなかでも大切に育まれた豊かな文化や暮らし。厳しい闘争の最中でも絶えることのない歌とユーモア。いくさに翻弄され続けた 70 年に終止符を打ちたいという沖縄の切なる願いを世界に問う。

タイトルの『戦場ぬ止み』は、辺野古のゲート前フェンスに掲げられた琉歌の一節に由来しています。
今年(くとぅし)しむ月(ぢち)や 戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み 沖縄(うちなー)ぬ思(うむ)い 世界(しけ)に語(かた)ら

−−−三上智恵監督コメント
「基地は訓練をする場所で、日本はずっと戦争をしていない」。そう思わされ、都合良く目を背けてきた日本人に、70 年間封じ込められてきた沖縄の呻きをぶつけなければならない。そこから語り直さなければ届かないのだと、19 年沖縄の放送局にいて痛感しました。この映画は、沖縄の負担を減らして欲しいなどという生やさしいものを描いてはいません。知事を先頭に、国と全面対決してでも沖縄が止めたいものは、日本という国で息を吹き返そうとしている「戦争」そのものです。それが見えているから沖縄は屈しません。辺野古のゲートや海上で彼らに襲いかかってくる権力は、警察、防衛局、海上保安庁にその姿を変え、素手の県民を押さえつけます。
でも、いくら押さえられても、その口は歌を唄う。怒りの絶頂を瞬時に笑いに変え、気力を盛り返す。撮影しながら、私は確かに地鳴りを聞きました。揺り起こされた「島ぐるみ闘争」の震動は、やがて激震となって本土に到達するでしょう。

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa