一目惚れをした女子大生を娼婦として売り飛ばしたヤクザ役を、傷つけることでしか愛を伝えられない不器用な男として圧倒的な存在感で演じ、世界中の観客を魅了した『悪い男』(キム・ギドク監督作)のチョ・ジェヒョン。映画だけではなくテレビドラマや演劇でも活躍し、本年OAされた主演ドラマ『鄭道伝(チョン・ドジョン)』では、視聴率が右肩上がりとなるなど大きな話題を集めるとともに、自身も百想芸術大賞テレビ部門最優秀男優賞を受賞するなど、名実ともに韓国を代表する俳優であり、一方では、強烈な悪役を演じさせたら誰の追随をも許さない韓国No.1の怪優、チョ・ジェヒョンの出演作が、この12月、2作立て続けに、日本公開される。

 現在絶賛公開中の『メビウス』は、久しぶりの出演となるキム・ギドク作品で、自身の不貞行為が原因で息子の性器を妻に切り取られた父親を、セリフ無しで、眼差しと表情のみで演じ、キム・ギドク監督のペルソナとしての存在感を示している。
一方の12月26日公開の『王の涙−イ・サンの決断−』は、朝鮮王朝第22代国王イ・サンを主人公に、暗殺事件をきっかけに若き王が真の偉大な王になる運命の24時間を描いたエンタテインメント作品。未だ真実が解明されていない事件を、イ・サンと、対立する派閥“老論派”のトップの王大妃ら実在した人物の対立構造といった史実の中に、暗殺事件の影で暗躍した闇組織があったというフィクションを織り交ぜて描いた本作で、チョ・ジェヒョンは、闇組織の元締めで、ヒョンビン演じるイ・サンの敵となるクァンを演じている。

この役をオファーされた当初、チョ・ジェヒョンはこれまでと同じような強烈な悪役をまた演じることに意味があるのか、と疑問をもっていたが、イ・ジェギュ監督からの、「クァンは、一面的な悪役ではなく、冗談を言ったりするコミカルさのある役どころであり、これまでとは違う別の「悪」の表現をしてみて欲しい」というアプローチによってオファーを快諾。毎回3時間以上(キャストの中で最長)をかけて施された、髪の毛、シワ、傷などの特殊メイクによって、実年齢は40代のチョ・ジェヒョンが、年齢不詳の老獪な老人に仕立てあげられ、一見しただけではあのチョ・ジェヒョンだとは分からない姿で、ニヤニヤとした笑みを浮かべ、お金の為には人の命を簡単に弄ぶ憎々しくも不気味な存在のクァン役を怪演している。
チョ・ジェヒョンにとっては、これまで演じてきた「悪い」男ともまた違う、強烈なビジュアルも印象的な、新たな悪役となった『王の涙−イ・サンの決断−』のクァン役。本年の主演ドラマで演じた朝鮮王朝建国の功臣・鄭道伝役で新たにファンになった韓国の女性たちは、本作を観て「あの素敵なチョ・ジェヒョンをこんな恐ろしい老人にするなんて!」と悲鳴をあげたそう。もちろん、その怪演は、類いまれな演技力あってこそ。ファンにはぜひ見てもらいたいチョ・ジェヒョンの新境地だ。

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執筆者

Yasuhiro Togawa