本作は、中国の精神病院を撮影した初の国際的ドキュメンタリー。
ワン・ビン監督ならではの被写体との距離=“ワン・ビンの距離”で

視る者を鉄格子の中に引きずり込む予告編が完成!

2009年に当局が「精神病患者が1億人を超えた」と発表した中国。急激な経済成長の陰で、その数はさらに増加の一途をたどり、現在では日本の人口を超えているに違いないが、その精神病院の実態は謎に包まれている。
今回、『三姉妹〜雲南の子』などで知られる世界的ドキュメンタリー監督ワン・ビンが撮影したのは、雲南省の精神病院。
ここには200人以上の患者がいて、中には入院して20年以上になる者もいるなど、その実態は「入院」というより、まさに「収容」。
患者たちは多種多様で、暴力的な患者、非暴力的な患者、法的に精神異常というレッテルを貼られた者、薬物中毒やアルコール中毒の者、さらには、日本では信じられないことだが、政治的な陳情行為をした者や「一人っ子政策」に違反した者までもが、“異常なふるまい”を理由に収容されているのだという。

しかし、そうした衝撃以上に、本作観賞後に印象に残るのは、収容者たちひとひとりの人間としての魅力だ。
ワン・ビン監督と言えば、ファンが必ず口にするのは、その独特な被写体との距離だが、約3ヶ月半の撮影期間中、監督がほとんど毎日病院に通って記録した本作の映像は、まさにこの誰も真似することのできない唯一無二のカメラ=“ワン・ビンの距離”を感じさせる。
今回完成した予告編でも、その一端は垣間みれるが、まず注目したいのは予告編冒頭の長いショット。
暗闇の中遠くに光が灯り、患者らしき男の声が響き、廊下のこちら側にいたカメラがすーっと中へ入って行く。
その後に続くのは、撮影されていることなどまったく意識していないような収容者たちの自然にふるまう日常の姿。“ワン・ビンの距離”の面目躍如だ。
そして予告編の最後は暗い病院内を半裸で走り続ける患者の背中を追い続けるショットに「ガシャン!」と鉄扉が閉まる音。
中国の精神病院の実態を視るという以上に、自分が鉄格子の中に入ってしまうような感覚を覚え、不自由な鉄格子の中でも互いにいたわりあい、愛を求める収容者たちを愛おしく感じてしまうワン・ビン監督の新しい傑作。いち早く予告編で体験して欲しい。

予告編::http://youtu.be/qcONXSHd2T4

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執筆者

Yasuhiro Togawa