かつて世界の捕鯨の中心地であり、現在でも毎月 500 隻以上が出航する漁港、ニューベッドフォード。本作はその沖合で撮影された。ハーマン・メルヴィルの「白鯨」をインスパイアしたあの神話的な港町から、我々は巨大な底引網漁船アテーナ号とともに大海原へむかう。

船は黒く濁った海を航く。危険と隣り合わせの過酷な漁は何週間にもわたる。しかし『リヴァイアサン』は「伝統」に抗い、漁師たちの仕事をロマンチックに描いたり、善良な漁民といったイメージに置き換えたりはしない。かわりに、これまで誰も試みたことのないやり方で、人間、海、機械装置、海洋生物といった現代商業漁業に関わるすべてを生々しく、鮮烈に、まるで万華鏡のように活写していく。そこでは、美と恐怖、生と死とが不気味に溶解しあう。

本作を監督したルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェルの二人は映像作家であり、ハーバード大学感覚人類学研究所に所属する人類学者でもある。カメラは網の中でもがく魚たちや、上空を飛び交うカモメの目線となり、虚空を舞い、海中へとダイブする。泡立つ波音、クレーンの軋み、波に揉まれた船体があげるうめき。圧倒的な映像と音響の奔流。『リヴァイアサン』は、そのただなかに我々を放りこむ。もはやそれは黙示録の体験である

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執筆者

Yasuhiro Togawa