この映画の中で最初に主人公が口にするロックという言葉は、混ぜ物のないとても美しい響きを持っていた。まるでそれまでロックなんて一度もやって来なかったかのように。だけど主人公はロックを思い出した瞬間にロックを忘れてしまった。ロックは考えることから開放されることなのに、考えの中に閉じ込められた。楽器を持たずにロックするのはむずかしい。
できればぼくはこの映画で、ロックという言葉をあんなに美しく発音した主人公の、もう少し先までを見てみたかった。

友部正人(シンガー・ソングライター)

コンビニのアルバイトをしながらうだつの上がらない毎日を過ごしていた優介は、夢に出てきた男のことが頭から離れずにいた。ある日、昔組んでいたバンドのベーシストであった幸雄が優介の前に現れる。その再会は、忘れようとしていたこととの再会でもあった。恋人が拾ってきた不気味な人形の存在、ホームレスの船田、馬の顔。次第に夢の世界と現実世界の境界線が不明確なものになっていく。そして優介は夢に出てきた男に導かれるように、此処ではない何処かへ旅立つのだったが……

2014 年 1 月 25 日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイト2週間限定公開

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執筆者

Yasuhiro Togawa