是枝裕和監督・福山雅治主演「そして父になる」、宮崎駿監督「風立ちぬ」、松本人志監督「R100」など錚々たる顔ぶれが入選したトロント国際映画祭(Toronto International Film Festival)は、約40万人の観客動員を誇る映画祭であり、アカデミー賞につながる映画祭として、業界でもとくに重要視されています。
今年同映画祭に全世界から応募された作品数は実に約4,000本、この応募作品多数の狭き門をくぐり入選を果たした映画のうち、日本映画は冒頭にご紹介した作品含む6本でしたが、それらに肩を並べ「人間 –Ningen-」という作品が入選していることを知る人は多くありません。実はこの作品、2013年トロント映画祭において、監督と主要撮影スタッフ以外、役者を含めて全て一般の人々による製作にして入選という快挙を、日本作品の中では唯一成し遂げた極めて「異質」な作品なのです。

監督はカンヌ国際映画祭入選などの華々しい経験を持つトルコ&フランス出身の男女ペア、チャーラ&ギョーム。主演を務めたのは東京に事務所を構える中小企業の現役経営者・吉野眞弘(66歳)。
監督たちと吉野の出会いは、日本で開催されたある映画祭の授賞式でした。「異文化」をテーマに映画を撮り続けているチャーラ&ギョームは日本文化に強く魅せられ、その後京都に長く滞在、その間監督たちは演劇に深い造詣を持つ吉野に興味を持ち、長編映画製作の話を持ちかけました。少額出資者として参加するつもりだった吉野に伝えられたのは思いがけない主演という大舞台!戸惑いながらも承諾した吉野をはじめ、演技経験もない社員やサンバダンサー、現役の狩人といった異色のキャストを文字通り巻き込み、本作は誕生したのです。
関係者を中心に上映会を行ったところ、その映像の美しさと独創的な世界観を称賛する声が寄せられ、背中を押される形で国際映画祭への出品を決意。数か月後に届けられたのは、誰もが耳を疑うトロント国際映画祭入選という快挙でした。トロントでのワールドプレミア上映は毎回ほぼ満席、上映後の質疑応答では会場から口々に熱心な質問が寄せられました。「人生は2度と来ない」を座右の銘にする、日本のいち中小企業の経営者であった吉野が、それまでの人生では考えられない、まさに2度とは巡り合うことのない経験をした瞬間でした。

「狐と狸の化かし合い」という日本に古くから伝わる物語と、現代日本の中小企業経営者という「異質」なものの出会い。それをトルコ&フランス出身の監督の視点で描くことにより生まれた、ドキュメンタリーでもない、完全にフィクションとも言い切れない空気感。トロント国際映画祭を沸かせたファンタジック・ヒューマン・ラブ・ストーリーが11月2日(土)から東京・渋谷で、1週間限定の凱旋上映を行います。お近くの方はぜひ、その“奇跡”をお楽しみください!

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執筆者

Yasuhiro Togawa