人が誰しも持つ「過去」という名の「闇」。それでもどうすれば人は前を向いて歩いていけるのか?
 直木賞作家・角田光代が、その「闇」に焦点を当て、犯した罪におびえながら、時に悲しみ、時に許しを請う人々の姿を繊細に描いた短編小説集「かなたの子」を坂井真紀主演で映像化。
 1泊2日の富士登山ツアーに偶然集った参加者たちはそれぞれが過去に闇を抱え、救いを求めるように山頂を目指していた。取り返しのつかない過去、罪の意識にさいなまれながら、山道を一歩一歩進んでいく、まるで人生になぞらえるような登山。決して過去を断罪するのではなく、彼らの「闇」にかすかに光が差し込む瞬間をすくいとった人間ドラマとなっている。
 坂井真紀、井浦新、宮?将、満島ひかり、永瀬正敏、藤村志保といった俳優陣に加え、監督には映画『さよなら渓谷』(’13)でメガホンをとった大森立嗣と、豪華なキャスト、スタッフが集結。ロケは今年世界遺産に登録された富士山で実際に行なわれた。4本ある登山ルートのうち、頂上までの標高差が最大かつ、最も過酷とされる御殿場ルートを舞台に、天候の変わりやすい厳しい環境の中、頂上までの撮影を敢行。富士山世界遺産登録後、初のテレビドラマ作品の撮影となった。

<ストーリー>
 前をゆくおぼろな人影が見える。深い霧が立ちこめ、足下は、めり込むような砂地だ。人影はとてもゆっくりと歩いているのに、どうしても追いつけない。と、ふっとかろやかに別の人影が追い越していった。ちいさな人影だ。霧のなかにほの見える表情にはなにか見覚えがある気がする。もっと近づこうと足を踏み出したとたん、そのちいさな人影は消えてなくなり、「私」は膝から崩れ落ちた・・・。豆田日都子(坂井真紀)は1泊2日の富士登山ツアーに参加していた。ガイドの野澤亮一(井浦新)を先導に、近藤晋太郎(鈴木晋介)、青山ソメノ(伊佐山ひろ子)、見附あい(大西礼芳)とともに山頂を目指している。ふとソメノが振り返ると、日都子が手で顔を覆いしゃがみこんでいた。亮一たちに声をかけられ我に返った日都子は、もうろうとする意識の中で見た人影がひとり娘のなつき(岩崎未来)であったことに気付く・・・。

原作:角田光代「かなたの子」(文藝春秋) 2012年(第40回)泉鏡花文学賞受賞
監督:大森立嗣(『まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』)
脚本:高橋泉(『ソラニン』「人間昆虫記」)
出演:坂井真紀  井浦新 宮?将 満島ひかり 永瀬正敏 藤村志保 ほか

執筆者

Yasuhiro Togawa