類まれな美貌と謎の生涯ゆえに伝説となった悲劇の王。
芸術を愛し、ワーグナーに心酔し、争いと権力を嫌忌した若き王の孤独と苦悩、
そして真実の姿とは——

 19世紀半ば、ヨーロッパ一の美貌を謳われたバイエルンの王がいた。その名はルートヴィヒ2世。ドイツ連邦の統一をめぐって激しい主導権争いが繰り広げられるなか、戦争にも権力にも感心を持たず、ひたすら芸術に情熱を注いだ彼は、40年の短い生涯を通じてバイエルンを美と平和の王国にするという見果てぬ夢を追い続けた。しかしその高い美意識と強烈な個性ゆえ、誰にも理解されることなく、“狂王”とまで呼ばれたルートヴィヒ。そんな彼が、なぜ125年以上たった今も人々を魅了し続けるのか—。本作は、あのヴィスコンティの名作『ルードウィヒ/神々の黄昏』でも語りつくせなかった、伝説の王の波乱の生涯を、生々しく格調高く演じあげている。
 
 芸術至上主義者にして平和主義者。ナイーヴで純粋な若き日のルートヴィヒを演じるのは、ルーマニア出身の新星ザビン・タンブレア。繊細な個性が光る熱演により、バヴァリアン映画賞の新人男優賞とドイツ新人賞を受賞。ドイツ映画賞の主演男優賞にもノミネートされた。そのルートヴィヒを意のままに動かし、国の命運を左右するほどの権力を得ていくワーグナーには、『es [エス]』の教授役で知られるエドガー・セルジュ。ルートヴィヒが女性の中で唯一心を許したとされるオーストリア皇后エリザベートには、『4分間のピアニスト』で国際的な注目を集めたハンナ・ヘルツシュプルングが扮している。ドイツ映画界がその威信をかけ、20億円の製作費を費やして作りあげた本作では、美術も大きな見どころだ。撮影には、ロマンチック街道最大の観光スポットとなっているノイシュヴァンシュタイン城や、リンダーホーフ城、ヘレンキームゼー城など、ルートヴィヒの夢と浪費の象徴ともいえる城が贅沢に使われているほか、ミュンヘン、ウィーン、チロルなどのゆかりの深い場所でもロケが行われた。撮影監督は、『ピアニスト』『白いリボン』といったミヒャエル・ハネケ監督とのコラボレーションで知られるクリスティアン・ベルガー。プロダクション・デザインは、同じくハネケ組のクリストフ・カンターが手がけている。

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執筆者

Yasuhiro Togawa