イスラエルとパレスチナ。紛争によって壁の<向こう側>と<こちら側>に引き裂かれてきた両者の子どもが、もし取り違えられ、18歳になる日まで、その事実に気づかずにいたとしたら—。
“子どもの取り違え”という題材が、9月に公開されるカンヌ審査員賞受賞作『そして父になる』(是枝裕和監督)と共通することもあって、すでに注目されている『もうひとりの息子』。背景に中東問題が絡み、対立している両者の間の取り違えで、さらにその衝撃の度合いは大きいが、たとえイスラエルとパレスチナ問題を知らなくても、誰もが共感し感動できる傑作と評価も高い。
今回、完成した特報は、取り違えの事実が告知される病院でのシーンに始まり、その繊細な演技が国際的に評価された俳優たちの表情から、育てた子と産んだ子への愛情に板挟みになる親の葛藤や、息子たちの自分のアイデンティティへの悩みが伝わってくる内容になっている。

2人の母を演じたのは、『リード・マイ・リップス』『キングス&クイーン』などで知られ、現在フランスで最も尊敬を集める女優のひとりであるエマニュエル・ドゥヴォスと、パレスチナの巨匠マシャラーウィ監督の夫人でもある大女優アリーン・ウマリ。ふたりの大女優のエモーショナルで、同時に知的な演技は、この作品の見所のひとつだ。赤ん坊のころに取り違えられ、今は18歳になった2人の息子には、『ぼくセザール10歳半1m39cm』など子役時代から活躍するジュール・シトリュクと、本作をきっかけにオファーが殺到したベルギー出身の新鋭俳優マハディ・ザハビ。最新作では、ハリウッドの演技派フィリップ・シーモア・ホフマンとの共演を果たしたザハビは、演技力はもちろんだが、そのエキゾチックな美しさも必見だ。

オリエンタルな詩情あふれる印象的な音楽は、チュニジア人音楽家のダフェール・ユーセフ。伝統的なコーランの学校で学んだ後、北欧ジャズに出会ったというユーセフの音楽は、民族音楽とはひと味違うミクスチャーな魅力があり、宗教や国や民族を超える希望を伝える映画の内容にぴったりと合っている。

根深い対立を乗り越え、希望を見いだそうとする人間の強さに、誰もがもう一度、未来を信じたくなる名作と絶賛され、審査員全員一致の東京国際映画祭グランプリに輝き、監督賞もダブル受賞した『もうひとりの息子』。その世界観の一端を、ぜひ特報映像で、ひと足早く感じて欲しい。

特報::ttp://youtu.be/878gnFdIlMU

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=50967

執筆者

Yasuhiro Togawa