“賠償額は6億円” “訴えられたのは米大手ファストフード店”
“1本の電話で少女が裸にされた信じがたい事件”
全米に衝撃が走った、この信じられないような本当の事件を映画化した『コンプライアンス 服従の心理』が、いよいよ明日6月29日(土)より、新宿シネマカリテほかにて公開となります。

サンダンス映画祭での上映を皮切りに世界各地で絶賛され、2012年末に発表されたナショナル・ボード・オブ・レビューでは、アン・ダウドが見事助演女優 賞を獲得、さらにタイムアウトN.Y.誌、 ヴィレッジ・ボイス誌等、アメリカの有力 カルチャー誌が選ぶ2012年ベスト映画トップ 10にランクインを果たした本作。
クレイグ・ゾベル監督より、「映画の題材 としての“事件”」「権威の象徴=警察」 についてなどのコメントが届きました。

監督クレイグ・ゾベルのコメント

●映画の題材としての[事件]
私がこの事件に遭遇したのは、ちょうど“権威と服従の実験”で有名な[ミルグラム実験]に興味を抱いていた時だった。誰もが生きていく中で、自分の価値観に反し誰かを裏切ったことがあり、それが他人の命令だったことを自覚しているものだ。私は、こうした行動が人間の本性の大部分を占めているかもしれないという驚くべき事実と、そう認識しながらも自分に正直になるのがどれだけ難しいかということに興味を持ったんだ。また、さらなる疑問も湧いた。強硬に権威を行使する者は、権威に絶対的に服従する者よりもはるかに悪いと決めつけられるのだろうか?全ての意思決定権を権力者に明け渡せば、事件に関与した責任を問われないのだろうか?失敗や責任から逃れることができるのだろうか?

●権威の象徴=警察
社会が警察を効果的に利用できるように、我々は彼らが正しい行いをするのだということを完全に信用しなければならない。警察が正しい行いをすると約束したからには、我々は警察に従うべきである。だが、もしそれが警察を装った男であったらどうだろう?
警察は多くの人にとって、人生で遭遇するであろう最大の権威者となる。私は警察官が権威を行使し、その場の優位を保つために使う言葉に特徴を見出した。この微妙な権力の主張を、言葉遣いや話し方を通して、できる限り捉えようと試みたんだ。

●コントロールされた「周辺都市」
本作の舞台は、アメリカの「周辺都市」あるいは「準郊外」だ。何百万人もの人が住むが、いまだ隔絶された場所である。
この点において、私は企業で塗り固められている枯れた世界に、抽象的な美しさを見つけようとした。現実の世界のぼんやりとした薄明かりと夜霧が、見えないように設計された商業的環境に流れ込んでいく。そんな一日の終わりと夜の始まりの瞬間を捉えようとしたんだ。
ファストフード店自体は、どこにでもある現代的な店で、誰にとっても当たり障りのない、ひいては全く味気ないものだ。プラスチックの植物、灰色に白の模様のラミネート材、嫌味のない抽象アート、派手な色の合成皮製品。オフィスのバックルームには生活感があり、同時に倉庫でもある。大量の書類の山と、翌月の宣伝用ウィンドーシールの入った半開きの段ボール箱が部屋を占領している。事実、こういった企業環境ははるか遠くにある本社により管理されている。そうすることで、本社は従業員をコントロールしているんだ。本作に登場するイタズラ電話の主のように。

●セットについて
本作において、かなりの時間が一つの撮影現場で費やされたことが分かる。そういう意味では、これは舞台演劇を撮影したものに似ている。そこで、舞台演劇を映画化した中でも優れた作品、マイク・ニコルズ監督の「バージニア・ウルフなんかこわくない」(1966)を観て構成とカメラワークを研究した。監督がリビングルームで4人にお喋りをさせるシーンは、正にそれ自体がアートなんだ。
作品の半分が撮影される店長のオフィスについての話し合いで明白だったのは、このオフィスを舞台/倉庫に見立てれば製作的に好都合だろうということ。私は、セットをL字型あるいはT字型の、後のストーリーで使うことができる複数の「コーナー」を持つものにしたいと思っていたんだ。現実には、こういった部屋から景色を見られることはほとんどないけれど、ガラス窓を作り付けることを希望した。これによって、外の光がセットの中に入り、ストーリーが重苦しくなるにつれ、よりおぞましい光へ変化する効果を狙ったんだ。

●クレイグ・ゾベル監督
初監督作「Great World of Sound(原題)」が2007年サンダンス映画祭で上映、その後ナショナル・ボード・オブ・レビューのインディペンデント映画賞TOP10に選出される。監督2作目となる本作が高く評価され、L.Aタイムズ紙が選ぶ2012年ブレイクした映画人のひとりに選出。次回作として、クリス・パイン、アマンダ・セイフライド共演のSF映画「Z for Zachariah(原題)」が企画進行中。

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執筆者

Yasuhiro Togawa