『映画は映画だ』『義兄弟』のチャン・フン監督×『JSA』の原作者パク・サンヨン(脚本)が強力タッグを組み、韓国の名だたる最優秀作品賞や撮影賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表に選ばれた『高地戦』が公開中だ。

本作は、1953年、朝鮮戦争の南北の境界線を争う最前線を舞台に、いつまで続くのか、なぜ戦うのか、停戦だけを願って生き抜く兵士たちの姿をとらえたチャン・フン監督渾身の最新作。日本大学芸術学部の映画学科の学生へ向け特別試写会を行い、戦地へ赴く兵士たちと同年代の現代を生きる学生たちへ映画を観て感じた想い、率直な質問をチャン・フン監督にぶつけてもらった。

Q.戦闘シーンのカメラワークや演出について、何か影響を受けた作品はあるのでしょうか。
—戦闘シーンの参考にした映画はたくさんあります。その中で撮影スタイルに一番大きな影響を受けたものを選ぶとすると、スタンリー・キューブリックの『突撃』です。最後の戦闘シーンで高地の盆地から兵士たちが飛び出し、側面から高速トラッキングで撮影したショットは、『突撃』に登場した戦闘シーンからかなりのインスピレーションを得ました。

Q.【停戦をし両軍が川で向かい合うシーンについて】昨日まで生死をかけて戦っていた相手に「お疲れ」と言える、この何気ないが重い一言に、争いの無益さと彼らの心の安息を感じました。この「お疲れ」という一言は、どのような意図で選ばれたのでしょうか。
—持続的に繰り返される地獄のような戦闘、同じ場所をめぐり幾度となく主が変わる戦闘。その無意味な戦闘の中、彼ら自身がどんなに苦労して生き残った者達なのか、戦っていたもの同士が最も理解していると思います。私もあのセリフが、無味乾燥でありながら非常に意味深いセリフだと思います。同じような境遇にいるが、決して友人にはなれない彼らなりの最大限の感情表現ではないでしょうか。

Q.『高地戦』を、今という時代に公開する意味について、どのようにお考えでしょうか。
—脚本家パク・サンヨンさんと初期に交わした会話で「誰もが戦争のごく一部を感じ取るだけだ」という言葉が忘れられません。戦争がもつ悲劇のすべてを誰もが経験できない、だから私たちはその全体の悲劇性をすべて網羅できないのです。その言葉と同じく映画も、観客に「戦争」というもののほんの一部しか観客に伝えることができません。ですがこの映画を観ることで戦争に対し少しでも全体的な視野を持てるような機会をもたらしてくれたなら、私としては非常にうれしいことです。また、残念なことに朝鮮半島ではまだ安定的な平和はもたらされていません。そういう面でも戦争は、過去のことではないという事を忘れない努力が必要だと思います。
「今までにない珍しいタイプの戦争映画だった」「映画に圧倒されあっという間だった」「戦う兵士たちの姿に感動した」など多数感想が寄せられ、現在次回作の脚本執筆中で来日が叶わなかったチャン・フン監督も、率直な学生からの質問に感動。それに対する真摯な回答に、この映画への熱い想いが込められている。

『高地戦』はシネマート新宿、シネマート六本木ほかにて全国公開中。

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執筆者

Yasuhiro Togawa