映画史に残る名作『オズの魔法使い』、弱冠10歳でアカデミー賞を受賞したテータム・オニールの名演が光る『ペーパー・ムーン』、女性二人の逃避行を描いた『テルマ&ルイーズ』といった女性主導型のロードムービーの系譜に、新たな一本が加わった。アメリカの女流作家アンドレア・ポーテスのベストセラー小説を、人気実力ともにナンバー1の若手女優、クロエ・グレース・モレッツ主演で映画化したのが『HICK-ルリ13歳の旅』だ。
 大ヒット作に出演するなど、ハリウッドで引っ張りだこの天才女優、クロエ・グレース・モレッツ初の単独主演作となる本作。タイトルにある「HICK」とは、田舎者、うぶな人、カモなどを表す名詞。退屈な田舎町での生活から抜け出し、夢の地ラスベガスに向かう13歳の少女が、旅の道中で様々な想像を超える衝撃的なトラブルや厳しい現実に直面し、傷つきながらも、瑞々しく成長を遂げていく様を綴ったファンタジックな青春ロードムービーだ。
「ハードでありながら感動的」、「ファニーであり、辛辣であり、そして挑発的」。予測もつかない衝撃的なクライマックスを体験した海外メディアは本作についてそう語る。
 
 そんなクロエ演じる13歳という少女ルリがたどる険しい旅の道中を生き抜くお手本となり、パートナーとなる人物が、派手でスタイルが抜群の秘密めいた女性、グレンダだ。グレンダは、ルリが思い描く女性らしさと自分らしさのすべてを完ぺきなまでに投影した理想像のように見える。しかしグレンダの実像は、愛のない結婚生活から抜け出せず、過去に持った危険な人間関係を振り切ろうともがく女性という飾り立てた姿からは程遠いものだった。

 ルリが長い旅の冒頭で出会うこの重要な役を演じたのは、つい先日ライアン・レイノルズと結婚した、現在最も勢いのあるスターの1人、ブレイク・ライヴリーだ。大ヒットドラマ『ゴシップガール』で輝かしいオーラを放つ“イット・ガール”のセリーナ・ヴァンダーウッドセン役でお馴染みの彼女。結婚して幸せいっぱいの彼女が最新作『ルリ-13歳の旅』で演じたのは、ルリの夢を体現したかに見える虚構の一面と、世の中に疲れ果てた気だるい愛人のような一面を併せ持つグレンダという、幸せ絶頂の実生活とは180度違った女性なのだ。
 
 「ルリにとってグレンダは完ぺきな夢の世界のお姫様だけど、暗く複雑な人生を送る一面もあるのね。両方の特徴を1つの役に盛り込むのは、かなり大変だったわ」と語るライヴリー。欠点だらけの女性、グレンダ。しかしそんな彼女をライヴリーは気に入っているという。「グレンダはとても芯が強くて、それでいて複雑なものを抱えた女性なんだと思う」とライヴリーは分析する。「表面的には陽気だけど、彼女をよく知っていくと映画の最後では脆い部分が見えてくる。彼女のまとう幻想が消えてなくなり、つらい目に遭いながらも耐え抜こうとする本当の姿が現れるのよ。グレンダはルリを見て幼い頃の自分を思い出すのね。そんな彼女のルリへの接し方に、私はとても感動するの」とライヴリーは語る。

 グレンダとルリの師弟関係を作れた理由を、ライヴリーはクロエ・モレッツとの関係がスムースに築けたおかげだと説明する。「クロエと共演できるなんて感泣ものよ」とライヴリーは笑う。「彼女は何でも楽々とこなすように見えるし、あの若さであそこまで役になりきることができて、さらに観客の心をつかむ技術に長けているんですもの。彼女が私の妹だったらいいのに、と思うくらいクロエが好きよ」

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執筆者

Yasuhiro Togawa