今年は、日中国交正常化40周年の節目の年です。40年—日本も中国も世界も大きく変わりました。日本人を見ても、同じ日本人なのかと思わせるほど、今と40年前では人々の意識が違っています。大人も子供も政治家も。中国はというと、国民はこの著しい経済成長を、戸惑いながら誰もが一応享受しておこう、ワンチャンスを物にしようという気持ちでいるのが見えるような気がします。特に都市部では、その思いは貧困層から富裕層に至るまで同じです。中国4000年の歴史の中で一番平和な時代だと思う、と言った中国の人がいました。政治的には内外に問題を抱えていますが、確かに漢民族にとってはそうなのかもしれません。かなり奥地に行っても、物が溢れているし、ブランド物も低所得者用のマーケットも充実している今日の中国です。
今年の“中国映画の全貌2012”は、日中国交正常化40周年にふさわしく革命直後の映画から現代の都市部の市民像を見事に切り取ったスパイスの効いた作品までそろいました。
日中国交回復後、日中友好協会に寄贈されたフィルムをデジタル化、上映を許可された5作品『農奴』『白毛女』『阿片戦争』『五人の娘』『ニエアル』を連続公開いたします。映像状態が悪く字幕も読みにくいのですが、純粋なプロパガンダ映画の傑作として一見の価値があります。
オープニングロードショーは、『私の少女時代』『ロスト・イン・北京』。
『私の少女時代』は、文革時代に下放された少女の実話からなる思い出話ですが、日本の疎開を描いたものでもそうですが、苛められた思い出などとかく暗い話が多い中、この物語は悲惨さは微塵もなく心地よく観ることができます。この監督の前作は、事故で両腕を失くした少女が努力してトップ・スイマーになるという実話の映画化で、心温まる映画作りを目指しています。
そして、『ロスト・イン・北京』。故今村昌平監督の言う“重喜劇”を継承したような、滑稽な庶民像を見せてくれます。中国公開時は、冒頭の中国ナンバーワン女優范冰冰(ファン・ビンビン)の体当たり濡れ場シーンがカットされて、しかも後に上映禁止になったといういわくつきの作品。ベルリン国際映画祭でも評判になり、李玉(リー・ユー)監督は一躍脚光を浴びることになり、一昨年『ブッダ・マウンテン』で東京国際映画祭芸術貢献賞、最優秀女優賞を受賞しています。
今の中国の経済発展は50年後、100年後、どうなっているのか?覇権を争うアメリカは?その時、日本は?この40年を見てきて占うことは難しいかもしれませんが、革命直後の映画、文革時代の映画、経済偏重時代の現代映画あらゆる映画を通して時代の息吹が伝わってきます…。

上映期間:2012年10月6日(土)〜11月16日(金)
場所:新宿K’s cinema

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro Togawa