昭和の文豪・井上靖の自伝的小説を、『クライマーズ・ハイ』の原田眞人監督により映画化し、さらに、役所広司、樹木希林、宮崎あおい他、日本を代表する実力派俳優の豪華競演も話題となり、現在大ヒット上映中の『わが母の記』。

この度、本作の、“母の日”舞台挨拶が行われ、劇中で“母”を演じ、実生活でも母である樹木希林さんと、メガホンを取った原田眞人監督が登壇。
さらに、樹木さんの巨大似顔絵を1100本のカーネーションで作成し、サプライズでご本人へプレゼント!

そして、樹木さんには内緒で、義理の息子さんである俳優の本木雅弘さんがサプライズゲストとして登場! 映画では初共演となる舞台挨拶となりましたが、本木さんからの母への想いを伝えられ、樹木さんは感謝しきり。
母の日に相応しい、心温まる舞台挨拶となりました。

【初日舞台挨拶 概要】

■日時:5月13日(日)15:10〜
■場所:新宿ピカデリー
■登壇者:樹木希林、原田眞人監督
■サプライズ・ゲスト:本木雅弘さん

※フラワーアートについて
映画の舞台にもなった静岡県の“伊豆の国農協、土肥(とい)センター”から前日に届いた5色(赤、ピンク、白、紫、緑)のカーネーションを1100本を使用し、スタッフ全員で、約10時間をかけて作りました。

【ご挨拶】

●MC:
まずはじめに、原田監督、公開から2週間経ち、たくさんの方にご来場いただいていますが、今のお気持ちをお聞かせください。

●原田監督:
公開して2週間も経つのに、こうして観客の皆さんに挨拶できるのは監督として光栄です。今までの僕の作品では初めての事なので、初日よりも今日の方が緊張しています。

これからも、この作品が一層飛躍できるように、皆さんの応援よろしくお願い致します。

●MC:
続きまして、伊上洪作の母・八重を演じられた樹木希林さん、ご挨拶をお願いします。

●樹木希林さん:
うちの娘が、「やっぱり私はローマ風呂の方を観たい」と言っていたので、ちょっとしどろもどろしてしまったんですが、『わが母の記』も健闘しているという事を聞きまして、今日は来させていただきました(会場笑い)。
感無量でございます。

【質疑応答】

●MC:
皆さん、「わが母の記」はお楽しみいただけましたか?(会場から盛大な拍手)

●MC:改めてお客様から盛大な拍手を受けて、どんなお気持ちですか?

●原田監督:
この数日間ずっとティーチインや舞台挨拶を行っていたんですが、質疑応答の時も熱心な質問が出てきますし、ネット上の書き込みも、こちらが思ってもいなかったような嬉しい文章が多いです。

早稲田大学でもこの1ヶ月教えていたので、学生にも課題として『わが母の記』の感想を書いてもらったのですが、自分が思ってもいなかった事を分析してくれる学生もいて、感動真っ最中です。

●MC:
公開前から非常にマスコミの評判が高く、公開後もご覧になられた方々からますます絶賛の声を頂戴している本作ですが、今回、井上靖さんの原作を映画化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

●原田監督:
井上靖先生が僕の高校の先輩という事と、僕自身が歳をとって来て若い世代に忘れられつつある井上さんの事を語らなくてはいけないなと思いました。

それと同時に、若い世代に忘れられつつある、小津安二郎監督や、黒澤明監督のような映画の世界、昭和の世界というものを映像的にまとめたいなという気持ちが徐々に強くなってきました。

ですから、10年前に原作を読んで、井上先生の世界に僕自身がどっぷり浸かって、5年くらい前から具体的に映画化に向けて進んでいった時には、小津監督の映像の枠組みを意識した方向性で作っていきました。

●MC:
八重さんの役は、はじめから樹木さんをイメージしてオファーされたのですか?

●原田監督:
最初から樹木さんですと言えれば良かったんですが、違います(笑)。

●MC:
樹木さんもたくさんの映画の現場を経験されているかと思うのですが、原田監督とは初めてご一緒されたんですよね? 原田組を経験されて、いかがでしたか?

●樹木さん:
全部撮り終わって、最近になってから、誰にやって欲しかったのか監督に聞いたんですよ。その人の名前を聞いて、「ああそうか。もっと早くに聞いておけば良かったな。」と思いましたが、早くに聞いていても、そこには近づけなかっただろうとは思いますね(会場笑い)。

●原田監督:
最初、僕は高峰秀子さんをイメージしていたんですが、若い樹木さんに、老けメイクをせずに、ご自身で老化というものを演じてもらった方が良いかなと。
28歳の時に『切腹』に出演した仲代達矢さんが、強烈なインパクトがあったように、樹木さんの演技もそれに匹敵するものになるんじゃないかなと思いました。

●MC:
映画の中で、10数年にわたって八重さんは年を重ねていきますが、老いていく姿を非常に自然に演じていらっしゃいましたよね。

●樹木さん:
ハリウッド映画と違って予算が少ないですからね(笑)。
老けメイクをして下さる方もいないですし、撮影も順撮りではないので、午前と午後とで、演じる年齢が違うこともあって大変でした。

●原田監督:
最初、樹木さんから、この「おばあちゃんは健脚ですね。」ということをおっしゃっていただき、老けメイクもなしで、ご自身の体を小さくしていく形で、老いを表現するということになったんです。

●樹木さん:
体が小さくなるように、骨を抜いて撮影をしていましたので(笑)。
それと、図々しそうに見えているかもしれないですが、原田監督を差し置いて、あまりお話はできないですが・・・1つだけ言わせていただきます(笑)。

実は、私は30数年前に名前を売ったことがあるんです。
あるテレビ局の社名変更をする際に、名前を売るお祭り騒ぎがあり、「何か売ってほしい」と言われたので、名前を売りました。
そうして新しく名前を考えるときに、ある方が「苗字を“ハハ(母)”」にしなよと言ったんです。そうすれば年を取ったら“ハハ(母)”というのを“ババ(婆)”にできるから良いじゃないかと(笑)。

でも、あいにく私は“ハハ(母)”も“ババ(婆)”になるにしても、母性が全くないので無理でした(笑)。でも、こうして『わが母の記』に出演し、母の日の舞台挨拶に立たせていただき、実にワガママな女優だと思いますので、まさに『わがママの記』という感じがしております(会場笑い)。

でも、今回の役は認知症にもなっているのもあるので、母性はまず忘れて、監督の腕によって、今日この場に立たせていただいてると思っています。

●原田監督:
樹木さんは、小津監督の作品で、杉浦春子さんの付き人として、実際に現場に入った経験があるんですよね?

●樹木さん:
本当に朝からシーンとした静かな現場で、中華そば屋のでのシーンで、自分のことを噂している3人のおじさんたちの話をきいて、杉浦春子さんが涙を流すシーンがあったのですが、何故かどんなにやっても、NGを連発してしまうんです。もうNGの理由が本当に分からなくて、そこですごく「あぁ、映画って嫌だなぁ」と思ったのが私の印象でした(笑)。

でも、私は小津さんの顔を実際に観てる人間ということで、何故か、皆さんから一目置かれているんですよね(笑)。

●MC:
さて、みなさま、今日は「母の日」です。
ここで、母の日にちなんで、<われらが母>樹木さんに、カーネーションで作ったフラワーアートを用意しました!どうぞ〜!!(フラワーアートが登場)
樹木さん、ご自身の似顔絵を基に作られたフラワーアートですが、いかがですか?

●樹木さん:
これ本物じゃないですか。もったいない(笑)!
何と言っていいか分かりませんが、ありがとうございます。

●MC:
ここで、サプライズゲストの登場です。樹木さんの義理の息子さんでもあります
俳優の本木雅弘さんです!

●樹木さん:
こういうのに、出てきたことがないんですよ。とにかく仕事の話を家で一切した事がないのに、よく来てくれる気になりましたね(笑)。
本当にびっくりしました!

●MC:
本木さん、今日は母の日ということで、特別にお越し頂きましたが、ありがとうございます。早速、樹木さんに一言頂戴できますか?

●本木雅弘さん:
『わが母の記』の大ヒット上映、そして母の日おめでとうございます。
私も、こういう場に参加させていただくことは、なかなかないのですが、皆さんご存知のように、樹木さんはたいていのことには驚かないんです(笑)。

ですので、こんな機会でないと驚いてもらえないと思って、つい、引き受けてしまったという事情でした(笑)。

『わが母の記』の撮影中に顔を合わせる機会は、数回しかありませんでしたが、原田監督の前向きで真摯に作品に取り組むの意気込みがあったからでしょうか、普段は2〜3分以上出番がある役はやりたくないと言っているのですが、重い腰を上げて、静かな意気込みを持っているのだなということを、近くで見て、感じていました。

樹木さんと親子関係になってから17年になるのですが、皆さんもよく分かるように、日常生活も緊張感に満ち満ちた婿生活をしています(会場笑い)。

でも、樹木さんは俳優としても人生でも、僕の大先輩なので、悩んだ時などには、背中を押してくれます。直接的な言葉ではないのですが、さり気ない助言をしていただいております。

樹木さんの存在は、母という存在を超えて、人生の助言者として、家族を、仲間を、豊かな人生へと導いていってくれると期待しています。
でも、樹木さんは他人のことまで頑張ってしまうタイプなので、身体には十分気をつけて、長生きして、私たちを支えていってほしいです。

●MC:
樹木さん、一言いただけますか?

●樹木さん:
とても驚きました。家でも芸能界の事は、ほとんど何も話さないんです。
同じ家に住んでいても、ただ洗い物を一緒にして、お皿を拭いてもらったり、という関係なんです。それに、私だけではなく、夫もお世話になっているので、頭が上がりません。今日は布団をかぶって寝てしまおうと思います(笑)。

あと、原田監督はいつも奥様と息子さんが、一緒にいらっしゃるんです。
私は、ヘアメイクさんもいないので、いつも1人で寂しい思いをしているのですが、今日で、一挙に取り返すことができました。ありがとう。

●MC:
ありがとうございました。そろそろお時間も迫ってまいりましたので、最後に、原田監督、会場の皆様に一言いただければと思います。

●原田監督:
もう何も言うことはないんですが、先ほど樹木さんもおっしゃっていたように、『テルマエ・ロマエ』のようなエンタテインメント性の高い作品も必要なのですが、この『わが母の記』のような、考えれば考えるほど面白くなるような、文化として考えられるような作品も必要だと思うので、頑張りたいですね。

でも、今年のゴールデンウィーク公開の映画は、とてもバランスが良かったと思います。
『テルマエ・ロマエ』には適いませんでしたが、僕らスタッフやキャストはもちろん、宣伝や劇場スタッフ、興行の方々など、みんなで情熱を込めて作りました。
でも、そういった熱意はお客さんに、直に伝わったことで、こうしてご挨拶が出来たのだと思います。

皆さんも是非、周りの方々に宣伝をしていただき、2度、3度とリピーターとして映画館に足を運んでいただければと思います。その時は、上映中はなるべくお話をせずに、たくさん笑って、泣いていただければと思います。

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執筆者

Yasuhiro Togawa