映画の歴史、そしてヌーヴェル・ヴァーグを語る上で欠かせないパリの“映画博物館”であり劇場である「シネマテーク・フランセーズ」。その映画の殿堂で、設立から今年で25年目を迎えた映画製作・配給会社シグロのドキュメンタリー映画作品、劇映画23本を一挙上映する特集上映が、現地時間11/2(金)よりスタート。23(水)までの22日間に亘って開催され、早くも「こんな日本映画は初めて!」とパリの皆さんに好評をいただいています。

今回シネマテーク・フランセ-ズによって選定された作品は『老人と海』『花はどこへいった』『チョムスキー
9.11』などのドキュメンタリー映画から、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』『ハッシュ!』などの劇映画まで、既成のジャンルを超え、一貫したテーマで社会性や同時代性に迫ったシグロ製作の秀作23本。「(シグロ代表の)山上徹二郎が取り上げるのは、従来の映画から見放されている社会的カテゴリー・階級だ。」(シネマテーク・フランセ-ズのプログラム)という観点で選ばれた映画作品群です。

■この名誉ある特集上映に際して、出品作に出演している俳優・監督からもコメントが寄せられました!

まずは、シグロさんの特集上映おめでとうございます。 僕が参加した「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」は
紆余曲折がありながら撮影・完成したので、とても感慨深い作品。この映画に出会えてすごく幸せと思った作品です。
この映画がフランスの方々に観ていただくのは大変うれしいです。 是非、楽しんでください
  ──────────── 浅野忠信(『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』出演)

パリ、シネマテーク・フランセ-ズでのシグロ特集で『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』が上映されるとのこと、おめでとうございます。私が演じた園田由紀という女性は、涙を流しながらも、まっすぐの眼差しで進んでいる、腹の座り具合が大事な女性だったので、揺るがないように、とにかく引き締めて、と心掛けていたように思います。今も変わらず大好きな女性です。
  ──────────── 永作博美(『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』出演)

パリ、シネマテーク・フランセ-ズでのシグロ特集上映、おめでとうございます。『松ケ根乱射事件』の上映もうれしく思います。あの頃の事を思い返すと、まるで新人AV女優の面接のように一枚、また一枚と脱がされていき、最後には監督である僕自身が丸裸にされた…。というのが“シグロ”と一緒に映画を作った時の印象です。自分の裸を見せることは、それはそれは恥ずかしかったのですが、その反面とてもとても気持ちいい経験でもありました。これからも人間を、または社会を丸裸にする映画を作り続けてください
  ──────────── 山下敦弘(『松ケ根乱射事件』監督)

いつも経済的に悪戦苦闘しながらも、山上徹二郎プロデューサーは、すぐれたドキュメンタリー作品を数多く作ってきた。その彼の仕事に、遠く離れたフランスの「シネマテーク・フランセーズ」が注目したというのは、実に素晴らしいことだ。今後の仕事の励みにもなるだろう。
  ──────────── 東陽一(『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』監督)

今回のシネマテーク特集上映については、シグロFacebookページ(日本語)、シネマテークのホームページ(仏語)にて詳細ご覧ください。
・シネマテークのホームページ(仏語)
http://www.cinematheque.fr/fr/dans-salles/hommages-retrospectives/fiche-cycle/productions-siglo,421.html
・シグロFacebookページ(日本語)
https://www.facebook.com/siglo.films
https://www.facebook.com/note.php?saved&&note_id=296010020417170&id=283525151665657

▼シグロ代表 山上徹二郎より
『フランスではもともと日本映画に対する関心は高いが、今回シグロ作品の特集上映が組まれたことに大変驚いている。劇映画、ドキュメンタリー映画を問わず、シグロの一貫した映画製作のモチーフを評価してもらったのだと思う。今回の特集上映を、とりわけ、“2011年の日本からの問いかけ”として受け取ってもらえたら、これに代わる喜びはない。』

山上徹二郎(やまがみてつじろう)プロフィール
シグロ代表取締役、シネマテーク動画教室主宰、映画プロデューサー。1986年シグロを設立、今年で25周年を迎えた。ドキュメンタリー映画や劇映画の製作のほか、海外映画の配給を含めこれまで100本を超える作品を製作・配給してきた。近年は、視聴覚障害者向けのバリアフリー映画の製作にも積極的に取り組み、また動画教室も主宰している。

▼「シネマテーク・フランセーズ」(Cinematheque francaise)とは?
http://www.cinematheque.fr/
“ヌーヴェル・ヴァーグの精神的父”と言われるアンリ・ラングロワとジョルジュ・フランジュが1936年パリに設立。フランス政府も出資する映画遺産の保存・修復・配給を目的とした私立文化施設。フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメールほか数々のヌーヴェル・ヴァーグの巨匠たちも通い詰めた映画の聖地として名高い。

▼株式会社シグロ
http://cine.co.jp/
1986年7月21日設立。 記録映画・劇映画の製作、配給を行っている。関連会社の青林舎作品を合わせると、これまで100タイトル以上の作品を世に送り出している。代表作に、『映画日本国憲法』『ハッシュ!』『絵の中のぼくの村』『花子』『チョムスキー9.11』など。また、ベルリン国際映画祭銀熊賞を始め世界のさまざまな映画賞を多数受賞。

■上映作品一覧 以下、シネマテークのプログラムより抜粋(シグロFacebookページにも掲載)

Les Productions Siglo : un cinema documentaire engage au Japon
シグロ作品特集:日本の社会派記録映画
〜2011年11月2日〜11月23日シネマテーク・フランセ−ズにて開催〜

シグロは、1986年に山上徹二郎が設立した。山上は少年時代を、石油化学工場が海に流した水銀によって多くの人びとが毒された水俣の近くで過ごし、水俣の環境破壊を目の当たりにした。水俣の被害者を支援する活動に参加した後、公害、貧困、アルコール依存症といった日本の社会問題を扱った記録映画、そして劇映画を製作し始めた。彼が取り上げるのは、従来の映画から見放されている社会的カテゴリー・階級だ。

AGENT ORANGE : A PERSONAL REQUIEM
『花はどこへいった』
監督:坂田雅子 日本/2007/71分/フランス語字幕/ビデオ
ベトナム戦争時に、アメリカが撒いた強力な化学物質の影響。

ANOTHER LIFE
『もうひとつの人生』
監督:小池征人 日本/1995/101分/フランス語字幕/16ミリ
大阪の4人の元アルコール依存症の人たち。

ARAKAWA
『あらかわ』
監督:萩原吉弘 日本/1993/80分/フランス語字幕/16ミリ
1992年11月、東京を含む関東地方を流れる荒川に滝沢ダムの建設の地方合意が成立した。

ARTISTS IN WONDERLAND
『まひるのほし』
監督:佐藤真 日本/1998年/93分/フランス語字幕/16ミリ
芸術を表現手段として、自己開発の手段として使う7人の知的障害者のポートレート。

BREAKING THE SILENCE
『沈黙を破る』
監督:土井敏邦 日本/2009年/130分/フランス語字幕/ビデオ
2002年、テルアビブで企画された写真展『沈黙を破る』で、イスラエルの元兵士や士官が、2年前のパレスチナ領を支配していた間のみずからの非人間性をさらす。

ECHOES FROM THE MIIKE MINE
『三池〜終わらない炭鉱の物語』
監督:熊谷博子 日本/2005/103分/フランス語字幕/ビデオ
本作は、日本でも有数の炭鉱である三池炭鉱を語る初めての映画である。三池で生き、働いた100人のインタビュー。

THE MEANING OF DOCUMENTING : CLAUDE LANZMANN AND TSUCHIMOTO NORIAKI
『記録することの意味 土本典昭とクロード・ランズマン』
監督:若月治 日本/1996年/180分/フランス語字幕/ビデオ
1996年、『水俣−患者さんとその世界』の映画監督、土本典昭がクロード・ランズマンを水俣に招き、チッソによる石油化学事業がおこした被害を検証した。
※11月13日(日)14時30 の上映に、クロード・ランズマン氏来場。

MINAMATA DISEASE : 30 YEARS
『水俣病=その30年=』
監督:土本典昭 日本/1987年/43分/フランス語字幕/16ミリ
水俣病の公認から30年。チッソの責任が認められ、殆どの被害者の裁判は勝利に終わった。

OUT OF PLACE : MEMORIES OF EDWARD
『エドワード・サイード OUT OF PLACE』
監督:佐藤真 日本/2005/137分/フランス語字幕/35ミリ
パレスチナ知識人エドワード・サイードのポートレート。

OUTSIDE THE GREAT WALL
『亡命』
監督:翰 光(Han Guang)  日本/2010/125分/フランス語字幕/ビデオ
亡命している中国の優れた芸術家や活動家たちが、中国における自由と人権の尊重をかけた闘いを語る。

POWER AND TERROR : NOAM CHOMSKY IN OUR TIMES
『チョムスキー9.11』
監督:ジャン・ユンカーマン 日本/2002/74分/フランス語字幕/35ミリ
アメリカ人知識人ノーム・チョムスキーのポートレート。

TOWN ALIVE
『人間の街−大阪・被差別部落−』
監督:小池征人 日本/1986年/80分/フランス語字幕/16ミリ
部落民の子孫たちが受ける差別についての考察。

UMINCHU : THE OLD MAN AND THE EAST CHINA SEA
『老人と海』 監督:ジャン・ユンカーマン 日本/1990年/101分/フランス語字幕/35ミリ
日本の南西、与那国島の82歳の漁師のポートレート。

WHERE IS GRANDMA ZHENG’S HOMELAND?
『チョンおばさんのクニ』
監督:班忠義 日本/2000/90分/フランス語字幕/ビデオ
第二次世界大戦中、幾千もの韓国人・中国人女性が捕えられ、強制的に日本兵に奉仕させられていた。

WIND FROM SHIGARAKI
『しがらきから吹いてくる風』
監督:西山正啓 日本/1990年/91分/フランス語字幕/16ミリ
伝統的な窯業の里、信楽では、多くの知的障害者が働いている。

YUNTANZA OKINAWA
『ゆんたんざ沖縄』
監督:西山正啓 日本/1987年/110分/フランス語字幕/16ミリ
1986年、沖縄返還から20年、彫刻家・金城実は、80%がアメリカ軍に占拠されている読谷村に戻る。

ALL AROUND US
『ぐるりのこと。』
監督:橋口亮輔 日本/2008/140分/フランス語字幕/35ミリ
出演:木村多江、リリー・フランキー、倍賞美津子
法廷画家のカナオは、1990年代の日本社会の問題を日々目の当たりにしている。ある日、彼の妻は、夫婦で待ち焦がれていた子どもを失う。

LA COMPLAINTE DU VENT
『風音』
監督:東陽一 日本/2004/106分/フランス語字幕/35ミリ
出演:上間宗男、加藤治子、つみきみほ
沖縄の3人、3世代。牧歌的な島であるが、第二次世界大戦の爪痕が残る島。

COUNTERFEIT
『ニセ札』
監督:木村祐一 日本/2009年/94分/フランス語字幕/35ミリ
出演 :倍賞美津子、段田安則、青木崇高
敗戦で弱っている第二次世界大戦直後の日本で、ニセ札作りの計画が密かに進行する。

HUSH !
『ハッシュ!』
監督:橋口亮輔 日本/2001/135分/フランス語字幕/35ミリ
出演:田辺誠一、高橋和也、片岡礼子
勝裕と直也は若い恋人同士。しかし、朝子が子どもを作ろうといったとき、勝裕は自分がゲイであることをかくすことが難しくなる。

MATSUGANE POTSHOT AFFAIR, THE
『松ヶ根乱射事件』
監督:山下敦弘 日本/2006/112分/フランス語字幕/35ミリ
出演:新井浩文、山中崇、川越美和
松ヶ根の町に一人は警察官でもう一人は農民の双子の兄弟がある。そこへ金塊を探しに犯罪者のカップルがやってくる。

LA RIVIERE SANS PONT (HASHI NO NAI KAWA)
『橋のない川』
監督:東陽一 日本/1992年/132分/フランス語字幕/35ミリ
出演:高橋悦史、中村嘉葎雄、大谷直子
物語は1908年から始まる。未亡人とその二人の息子、誠太郎と孝二は被差別部落小森に住んでいた。

LE VILLAGE DE MES REVES
『絵の中のぼくの村』
監督:東陽一 日本/1996年/112分/フランス語字幕/35ミリ
出演:原田美枝子、松山慶吾、松山翔吾
有名になった双子の絵本作家が高知の片田舎で過ごした幼少期を語る。
11月 6日(日)14時15 の上映に、東陽一監督・山上徹二郎プロデューサー来場。

WANDERING HOME
『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
監督:東陽一 日本/2010/118分/フランス語字幕/35ミリ
出演:浅野忠信、永作博美
元戦場カメラマンで、アルコール依存症の塚原は、自分の暴力から守るために妻と別れ、母の元に助けを求める。
11月 5日(土)16時30の上映に、東陽一監督・山上徹二郎プロデューサー来場。

執筆者

Yasuhiro Togawa